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#泡立ちのおはなし

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鶏卵の供給が戻るまで「大体半年から1年ぐらいかかる」。2023年2月23日の野村哲郎農相による会見での言葉です。鳥インフルエンザの感染の広がりにより、すでに全国の採卵鶏のうち約1割が殺処分されました。ヒヨコが孵化してから卵を産める状態まで大多数が140から160日かかります。
そんな情勢の中、もう一度卵の持つ役割について考えてみようと思います。お菓子作りにとっての必需品と言っても過言ではない材料の一つ、卵。今回は卵白の性質、「起泡性」と「泡沫安定性」について。泡立ちの原理を知ると、卵白の性質の稀有さ、それに代わる材料を生み出す製造技術への理解に役立ちます。

起泡性(泡立ちの良さ)と泡沫安定性(泡の安定性)はタンパク質などの界面活性が高い物質の溶解濃度が高いことで得られます。この、界面活性が高いタンパク質には水と空気の間に挟まって仲立ちをし、表面張力を下げるはたらきがあります。表面張力が下がると、かき混ぜて空気を混ぜ込んでも押し出されず、水と空気の境目がたくさんある状態、つまり泡立った状態にすることができます。これが泡立つ原理です。石鹸などに入っている界面活性剤は表面張力を弱め、泡を発生しやすく割れずらくするので泡立ちます。界面活性が高いものは他にもお茶や豆乳に含まれるサポニンという物質があります。

一般的に、卵白100gには約10gのタンパク質が含まれます。特に、オボアルブミン(卵白アルブミン)というアルブミンの仲間であるタンパク質は卵白の全タンパクのうち60~65%を占め、空気に触れると硬くなる性質があります。卵白を泡立てた時に空気に触れて泡が安定するのはこの性質のためです。卵白の起泡性を高めるものとしては、レモン汁、クレームタータ(ケレモル)等があります。これはオボアルブミンの空気変性が、pH中性付近で進みやすいという性質があるためです。アルカリ性である卵白に酸を加えることによって中性に近づき、空気変性によって泡の安定性が高まります。
ショ糖や他の糖類、多糖類は起泡性を抑えますが、泡沫安定性を高める効果があります。メレンゲを作る際、一度に砂糖を加えると泡立ちにくい分、細やかな気泡ができるのはそのためです。他にも起泡性を阻害するものとしては、油脂があります。メレンゲを泡立てる際に油分が残っていない道具を使うのは、泡立ちを弱めないためです。

実は大豆製品、ピーナッツ、アーモンド、オーツ麦、白インゲン豆、アズキ豆などにもタンパク質アルブミンは含まれています。ただし、油脂分の関係やタンパク質量の違いなどにより、泡立ちはするものの、卵白のような安定したメレンゲを作り出すことは難しく、現在でも多くの研究者が卵白の代替となるメレンゲを作り出そうと研究しています。近年では、フィンランド・ヘルシンキ大学に所属するナターシャ・ヤルビオ氏ら研究チームは、真菌から乾燥卵白の代替品となるオボアルブミンを作り出すことに成功しています。(2021年、学術誌『Nature Food』に掲載されました。)

ヴィーガンの卵代替品として人気のひよこ豆の「アクアファバ」(フランス語で「豆の煮汁」の意味)は、タンパク質量が高く、脂質も少ないため、卵白のように泡立ちます。ひよこ豆には100gあたりタンパク質量が7g、脂質は約6g含まれています。また、ひよこ豆にはサポニンという配糖体が含まれいます。サポニンはラテン語で石鹸を意味する「サポ」が名前の由来であり、水に溶かして混ぜると石鹸のような泡を作るため、天然の界面活性剤といわれています。そしてこれはマメ科の植物に比較的多く含まれ、卵白と同じように泡沫安定性を持っています。しかしだからと言って、アルブミンとサポニンを持つ食材が、ビーガンメレンゲと呼ばれるひよこ豆の「アクアファバ」のように安定したしっかりとしたメレンゲを形成するわけではありません。これはその食材が持つ栄養成分の絶妙なバランスによって成り立つのです。そしてそのような絶妙な泡立ちのバランスを、料理人やパティシエ、研究者やビーガンの人々が試行錯誤を繰り返しながら解明しようとしています。

今回王道の卵白、ビーガン卵白と呼ばれるひよこ豆缶の汁、マメ科である大豆の煮汁(どれも砂糖とレモン汁を加え泡立て)を使い、それぞれ泡立ちの個性をじっくり観察してみました。



卵白


卵白を使ったメレンゲ。泡立ち、保形性共に安定していました。焼いた後も筋が残り、なめらかな表面でした。





ひよこ豆


ひよこ豆の煮汁を使ったメレンゲ。泡立ちの良さと保形性があります。乾燥させた時に表面が細かくひび割れました。もう少し糖分を加えると表面の膜が壊れにくくなるかもしれません。ふんわり軽い食感で豆臭さもなく何かフレーバーを入れるなどしても面白そうです。





大豆


大豆の煮汁を使ったメレンゲ。少しとろっとするくらいまで煮汁を煮詰めてから泡立てました。卵白に引けを取らずしっかりと泡立ちました。絞る際の保形性は弱く、熱を加えると絞り跡が消えました。粉と素早く混ぜることができれば、生地に使えるかもしれません。もしくはモンブランの土台など、絞り跡がなくてもいいものには使えそうです。



アイテム数:10