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食材のクリエイターたち:オーム乳業

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article/pictures:Yuya Okuda

「オーム乳業」のクリエイターページはこちら

生産者、製造者、輸入者、販売者……役割や呼び名は違えど、みなそれぞれが個性的なつくり手だと言える。様々な能力と意志を持つ食材を生み出し、加工し、流通させる“食材のクリエイターたち”を訪ねるシリーズ企画

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福岡県大牟田市で、近隣酪農家からの新鮮な生乳を使用した生クリームやナチュラルチーズを製造・販売する「オーム乳業」。全国のパティシエやレストランのシェフを虜にする生クリームは、他の生クリームとどこが違うのだろう? その美味しさの秘訣を探るべく、オーム乳業本社と生乳の生産者、そして飼料工場を訪ねた。

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地域の牛乳屋からプロ仕様の乳業メーカーへ

オーム乳業の生クリームの特徴は、きめ細かくて舌の上でスッと溶けるキレの良さ。それでいてミルクの風味が鼻腔から抜けていくコクの深さだろう。看板商品の「ピュアクリーム」は、乳脂肪35%、38%、40%、42%、48%と豊富なラインナップをそろえ、乳脂肪分の高いものでもあっさりとしていることから、しつこさがない軽やかなお菓子に仕上がる。

70年代から80年代にかけて、洋菓子の本場フランスで修行してきた日本のパティシエが、帰国していざ同じケーキを作ろうとした時に直面したのが、生クリーム自体の風味の違いだった。そして国産の生クリームの中でもフランスの生クリームに近いと口コミで広まっていったのがオーム乳業なのだと、生産部部長の山崎誠さんが会社としての沿革を説明してくれた。

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1934年に「大牟田牛乳株式会社」として宅配事業から創業したオーム乳業は、学校給食用牛乳の供給を始めるなど、地元に愛される乳業メーカーとして歩んできた。牛乳・乳飲料の販売が減る冬場でも一定の収益を確保できるようにと生クリームの製造を始めたことから、業務用B to Bへと次第にシフトしていった。今では製菓用のチーズもラインナップに加わり、業務用に特化した乳業メーカーとなっている。

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かつての企業ロゴには長生きの象徴としてオウムのイラストが描かれていた

生クリーム製造の伴走者たち

オーム乳業の強みは、新鮮な生乳を受け取れる立地。福岡県大牟田市と、隣接する熊本県荒尾市にまたがって、比較的狭いエリアの中に酪農家が点在しているため、輸送で生乳の鮮度を落とすことがない。

この日訪れた黒石牧場は、本社工場から車でわずか20分ほどの距離にあった。酪農といえば北海道や東北などの冷涼な地域で盛んなイメージだが、九州で酪農を営むことの大変さと創意工夫について、場主である黒石哲博さんに話を聞かせてもらった。

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黒石牧場で搾乳している牛はおよそ100頭。1日あたりの乳量は1日3トンを超える

「牛は15℃前後が餌の食いもよくて1番いいです。夏場はどうしても餌をあまり食わずに水を余計に飲むから、乳の成分が薄くなる。乳量も7割ぐらいに落ちます。こいつらも人間と同じで、暑いと熱中症みたいな感じになるからこまめに水をかけてやったり、牛舎の屋根に白い塗料を塗ったり、電気代はかかるけど、霧を噴射する扇風機を天井に設置したりしています」

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農場内を案内してくれた黒石哲博さん

一頭の牛から生乳がとれるようになるまでは次のとおり。雌牛は生後13~16カ月で種付けされ、10カ月間の妊娠期間を経て仔牛を出産。おおよそ2年かけて乳が出るようになる。産後10カ月間搾乳し(出産から2カ月目で再び種付け)、2カ月乳房を休ませるのが1年のサイクル。こうして毎年出産を繰り返し、3~4回目の出産をピークに乳量は減少していく。

話を聞いていると、乳質と乳量を安定させることがいかに難しいかが理解できる。生乳の風味は、牛が何を食べているかで変わってくる。今度は黒石牧場がいつも餌を購入しているという(株)アララクを訪ねた。

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(株)アララクの外観

アララクはもともと農家出身者たちが立ち上げた「荒尾酪農業協同組合」が母体となっており、餌をつくる労力とコストに苦しむ酪農家の負担を少しでも軽減できるように立ち上げられた工場。近隣の酪農家たちで餌を共同管理するというケースは全国的に見ても珍しく、まとめて外国産の原料を入札することによって、高騰する餌代を比較的に安く抑えられているという。

ここで作られている搾乳用の餌は、麦ぬかやとうもろこし、ヘイキューブ(マメ科牧草のアルファルファを加工したもの)など8~9種類の穀物ベースの原料をブレンドしたもの。

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獣医監修のもと、搾乳に最適な配合でブレンドされたアララクの餌

酪農に不向きな気候だからこそ、牛にストレスをかけないように目の行き届く牛舎で世話をし、高騰する餌代の負担を少しでも抑えるために共同管理した穀物ベースの餌を与える。そんな生乳生産者たちの日々の努力が、オーム乳業がつくるすべての製品の品質を支えていた。

乳業メーカーとしての矜持

オーム乳業が生クリームの製造・販売を本格的に開始したのは1971年。1979年には、20日間保証を可能にするクリーンパックシステムを確立したことで販路を全国に広げ、「ピュアクリーム」をはじめとする生クリーム製品が東京や北海道でも手に入るようになった。そして80年代から90年代にかけてその品質とパティシエからの評判を確固たるものとしてきたが、進歩の歩みを止めることはなかった。

2016年、生乳が持つ魅力を最大限に引き出した自信作が発売された。それが「クレーム・ソワニエ」だ。入荷してから24時間以内の生乳のみを使用する受注生産の生クリーム。パティスリーのみならず、ミシュラン三ツ星を獲得するようなフレンチレストランなどでも愛用され、生クリームの可能性を広げる革新的な生クリーム。

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乳脂肪35%と48%の2種類がある。そのまま飲んでも美味しく、濃縮された生乳の風味が口いっぱいに広がる

「小さいメーカーだからこそできることを突き詰めた結果が、このソワニエです」と山崎さん。長年積み重ねてきたノウハウから導き出した製造工程が品質の決め手ではあるが、近隣の酪農家が丹精込めてつくった生乳に責任を持つという、日々の細やかな管理がなせる業でもあった。

オーム乳業ではすべての製品に対して、出荷前の品質検査、官能検査を徹底しており、クリームに関してはホイップテストまで行う。たとえ成分数値が良くても、検査してみて風味や官能に納得がいかなければ出荷しないのだという。山崎さんはその理由を次のように話す。

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「オーム乳業が目指しているのは、問屋もお菓子屋もレストランも、お客様みんなが満足する製品ですから、社内で満足できなかった時点でそれは叶いません。出荷停止にするのはもったいないと思われるかもしれませんが、私たちのような小さいメーカーこそ、絶対に曲げられない信念を持っていることが大切ではないでしょうか」

ソワニエとは「大切に気にかける」というニュアンスを含むフランス語で、フレンチのレストランでは「最上級のお客様」を指す言葉だそうだ。オーム乳業のフラッグシップ製品に冠されたこの言葉は、パティスリーやレストランのシェフといったこだわりを持つお客様のみならず、こだわりを持ちながら日々共に戦っている生乳のクリエイターたちにも向けられた、オーム乳業の意思表明のように思えた。

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オーム乳業株式会社
住所:〒836-0895 福岡県大牟田市新勝立町1丁目38番地1
営業時間:11:00 - 16:00(l.o.15:30)
TEL:0944-52-8282(代)
ホームページ : https://www.omubrand.co.jp/