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“ガトーフェルモ“の設計図| La Riviere de Sable

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ガトーフェルモTop ガトーフェルモTop

材料を選ぶということ。それは全ての製菓製パン職人にとって避けては通れない、必ず行う行為のひとつだ。
それは決して、パンやお菓子の味わいを決めるだけのものではない。どんな材料を選んだか、それによって関わる人々の行動も少しずつ変化していく。

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茨城県つくば市のパティスリー「La Riviere de Sable(ラ リヴィエ ドゥ サーブル)」のガトーフェルモ。2017年の「クープ デュ モンド ドゥ ラ パティスリー」に日本代表チームの一員として出場し、銀賞を受賞したオーナーの植﨑義明シェフによるカカオポッドを模した艶やかなケーキは、オープン当初から訪れる人々の支持を集め続ける人気商品だ。

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カカオ分70%のチョコレートムースに、滑らかな食感のチョコレートビスキュイ、柑橘の酸味が効いたコンフィチュールが織りなす濃厚でありながら優しい味わい。店の看板商品として人々に愛され続けるケーキを構成する材料は、一体どのようにして選ばれているのだろうか?

日々店に立つ傍ら、今春オープン予定の新店舗準備にも力を注ぐ植﨑シェフに話を聞いた。

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「つくり手の顔が見える」ことはなぜ素晴らしいのか

ーチョコレートとココアはどちらも森永商事のものを使用されていると伺いました。

ガトーフェルモの「フェルモ」は、僕が監修で入り森永商事と一緒に開発したチョコレートの名前です。『どんな目的にも使いやすい、万人受けするハイカカオなビターチョコレート』というお題でつくったこのクーベルチュールを、つくった本人としては当然メインで活かしたいじゃないですか。なので、ボンボンショコラと、マンディアンキャレのような板チョコ、それから生菓子っていう三本柱で、それぞれフェルモを使った商品を構想しようと考えました。それがこのケーキが生まれたきっかです。フェルモを使えるギリギリまで使って、ビターチョコレートを全面に押し出したような味わいのチョコレートケーキがつくりたかったんですよね。

僕が森永商事の製品を選ぶのはもうひとつ理由があります。それはつまり、開発者の顔を知っている、ということです。

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ショコラマニュファクチュール フェルモ70% / 森永商事

いわゆる“食品の安全性”という文脈の話だけではなくて、つくった人の考えを聞いて、こちらの思いをぶつけて、その上で自分がどれだけ納得できるかっていうのが材料選びにおいてはすごく大事なことだと思うんですよ。「何故その材料を使わないといけないのか?」が僕は気になるし、そういうのはつくった本人と話すのが一番早いじゃないですか。

森永商事に関してはテクニカルアドバイザーとして過去に数年お世話になっているので少し特殊な関係性ではありますが(*)、これに限らず、店で使う材料はできるだけーー味の決め手となるような材料や個体差の出やすい農産物に関しては特にーー開発者、生産者と直接対話して決めるようにしています。

*2013?2017年の間、植﨑シェフはチョコレートテクニカルアドバイザーとして森永商事に所属。全国各地でのデモンストレーションや製品開発にも携わった。

ー「信頼」がひとつの選択基準になるんですね。ココアは2種類を使い分けているそうですが、どのような意図があるのでしょうか?

ガトーフェルモの場合は、中央と土台のビスキュイ、使う場所によってココアに求める役割を分けて考えています。
初見の印象に関わる土台には「NF15」を。こちらはカカオバター分はそこまで高くないものの、チョコレートらしい色味が綺麗に出ます。中央のコンフィチュールを挟む層の部分に使っているのは「ローヤルNPC」です。「NF15」よりもカカオバター分が高くて、チョコレート感の強い味わいがつくれるんですよ。

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NF15 / 森永商事
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ローヤルNPC / 森永商事

とはいえ、僕の場合は「このお菓子にだけ使う材料」というのは実は店にひとつもありません。店のバックヤードのことを考えると、汎用性が高くて、色々なものにアレンジして使えるベースになるような材料を最小限持つのが理想で、今お話ししている材料も全て店では他のケーキと並行して使っています。ケーキひとつというより、店のラインナップ全体に対して材料を選んでいるようなイメージですね。

価値観の近い材料

ー「(使う材料は)できるだけ開発者、生産者と直接対話して決めたい」というお話がありましたが、他の材料に関しても同様のことが言えるのでしょうか?

店で扱う材料すべてを“つくった本人と話すこと”を必須条件にして選ぶのは、そうは言っても現実的には難しいですね。ですが“できるだけ日本で製造されたものを選ぶ”というのも、個人的な感覚としては近いと思っています。アーモンドプードルなんかがその一例です。

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アーモンドパウダー皮なし / イワセ・エスタ(画像提供:同社)

今使ってるのはイワセ(・エスタ)が出している皮なしのアーモンドプードル。アーモンド自体はアメリカ産なんですが、僕が選ぶ指針にしているのは別のところで。ポイントは、その管理責任を日本人が請け負っているということです。

たとえば素材自体の品質にしても、包装の仕方ひとつにしても、海外のものを使うと「ん?」ってなることが結構あるんですよ。その点、日本人が携わったものであれば違和感を感じることはあまりない。それはどの国が良いとか悪いとかって話ではなくて、結局僕自身が日本人だから、日本人ならではのものづくりに対する細やかな感性というか気遣いというか、そういったものに対して親和性を感じてるんだと思います。

材料が現場を変える

ー乳製品はどうでしょうか。パティスリーに欠かせないフレッシュクリームや牛乳を選ぶ基準は何かありますか?

うちはチョコレートがメインのパティスリーです。だから“チョコレートの美味しさを第一に感じてもらうこと”が何よりも大事。そうなると、それ以外の材料に関してはその妨げにならないような、癖のないものを選択することが必然的に多くなります。乳製品もそんな風に考えて選んでますね。

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酪農育ち3.6牛乳 / 森乳業(画像提供:同社)

ムースに使う牛乳は、森乳業の「酪農育ち3.6牛乳」。何に合わせても過剰な主張がなくて使いやすいんです。ジャージー乳みたいな濃厚な味わいを支持する声もあると思いますが、ジャージー乳って独特の牧草臭さがあって、チョコレートと合わせると喧嘩しやすい。もちろんその香りが活きるお菓子もあると思いますが、うちのケーキにはちょっと合わないかな。

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大雪原35 / 森永乳業

フレッシュクリームは森永乳業の「大雪原35」です。これも同じく癖がないことと、時間を置いても分離しにくいのが良いですね。分離しやすいものだと糖分が下に沈みやすいので、朝ある程度の量をホイップしても使うたびに攪拌し直さないといけない。そんな余計な手間がかからないという意味で重宝しています。

ー材料選びひとつで、現場の動きも変わるんですね。

そうですね。卵の選び方なんかも考え方は似てますよ。
店で使用する卵は、今はほぼ全てキューピーの冷凍卵。殺菌処理だったり、殻の混入の心配が要らないという衛生面での安心感がまず第一にあります。 それに加えて重要なのが、容量です。うちでは2kgのパック包装ではなく、少量でフィルム包装のものを使うようにしていて。2kgのほうが当然コストは抑えられますが、解凍にとにかく時間がかかるんですよ。前日から解凍することもあるくらいです。それに、一度解凍したら急いで使い切らないといけないという切迫感もあります。
ですがフィルム包装であれば、使いたいなと思ったらその場で必要な量だけ冷凍庫から出して、40度程度のぬるま湯につけて2?3分。それだけですぐに使えるようになります。

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加糖凍結卵黄20 / キューピー
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凍結卵白(製菓用) / キューピー

余計な仕事を増やさないだとか、現場の動線を考えても、やっぱりフィルム包装って良いなと思いますね。

「3%のコーンスターチ」の使いよう

あとは、粉糖もそう。今うちで使っているのは正栄食品工業の「正栄粉糖」で、コーンスターチが3%含まれているものなんですが、これを選ぶ理由も人の動きに関わるものです。

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正栄粉糖 / 正栄食品工業

ガトーフェルモに直接リンクする話ではないのですが、そもそもうちで使うアングレーズは全部粉糖で炊いてるんです。
アングレーズって温度管理が難しいんですよね。大概のレシピには「82度まで温度を上げてしっかり熱を通しなさい」って書かれてるけど、72,3度でとろみが出てきたら「もういいや」って火を止めてしまう人も実際の現場には多い。でもそうすると殺菌温度に達さないから危険だし、じゃあ炊き過ぎたらどうなるかと言えば、今度は煮返って卵が分離してしまいます。

一方でアングレーズによく似たものにパティシエールがありますが、あれってつまりアングレーズに粉を足したものですよね。ところがパティシエールの場合は沸騰させても煮返らない。何故か?それは粉に含まれるデンプンの作用によるものです。
じゃあアングレーズも粉の力を借りれば、パティシエールと同じようにつくれるんじゃないか、って。それに気づいてから粉糖はコーンスターチ入りを選ぶようになりました。

ーコーンスターチが入ることで品質が安定するんですね。

そうなんです。沸騰しても煮返らないということは、分離を恐れて殺菌温度に達さない状態で火から下ろす危険性を減らせるということ。うちでは「アングレーズはしっかり沸騰させる」をルールにしているので、その結果誰がやっても一定のクオリティを担保でき、僕も安心してその場を任せられます。

ーそういった手法はいつ頃から取り入れられたのでしょうか?

粉糖のアイデアを思いついたのは森永商事時代です。在籍中は各地でデモンストレーションを行っていたのですが、デモってつまり、毎回違う場所・違うチームであっても常に一定のクオリティでものづくりをすることが求められる現場。そうすると誰がどこでやっても失敗しない「絶対的なルセットづくり」っていうのが要になってくるんですよ。今の僕の価値観はその頃の経験の延長線上だと思います。

ブレンドでたどり着いた、制約の向こう側

ーグラサージュ・ショコラには2種類のナパージュを使っているそうですが、それぞれ選んだ意図を聞かせていただけますか?

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ハーモニー・スブリモ・ヌートルPF / ピュラトス
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アンジュクレール / 森永商事

グラサージュの目的は、“ケーキに瑞々しい艶を与えること”。その点で理想に近いのが、ピュラトスの「スブリモ」です。瑞々しさを長くキープできるのが良いなあと思ったんですよね。ですがその分固まりにくいというデメリットがあって。はじめは「スブリモ」一本でどうにかやっていたのですが、森永商事の「アンジュクレール」に出会ってからやり方を見直しました。 「アンジュクレール」の武器は速乾性です。適切な手順を踏めば、どこも同じ厚さでぴたっと固まってくれる。非加熱でこれだけのセット力があるものは僕は他に知らないですね。

ー2種類をブレンドすることで両者の良いとこ取り…ということでしょうか?

まさしく。試行錯誤していくなかで、自分好みの配合を見つけた感じですね。

修行時代から変わらないものもある

ー添加物を選ぶ時に気にされることは何かありますか?たとえば凝固剤など。

今日お話ししているガトーフェルモの材料に限らず、僕の場合一度決めたら長い付き合いになる材料が多いのですが、凝固剤なんかは特に修行時代から慣れ親しんだものをほぼそのまま使ってますね。同じようなものでもメーカーによって強度が多少違うことがあるので、やっぱり経験があるもののほうが使いやすいんですよ。

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ジャムベースS / アイコク

ムースのなかに仕込むコンフィチュールにはアイコクの「ジャムベースS」を使っています。コンフィチュールに限らず、ケーキのセンターに使うものにはペクチンを選ぶことが多いです。
ゼラチンは温度が上がると離水するので、センターに使うと時間の経過と共に層が浮いて剥がれやすくなります。ケーキって基本的に上から下まで一気に掬って食べてもらうことを想定して設計する食べ物なのに、層が剥がれたらセパレートして上だけぽろっと取れて落ちる可能性がある。そうすると上の部分、もしくは下の部分だけを食べてこちらの意図と異なる味で評価されてしまうかもしれません。それは不本意じゃないですか。
そうしないためには、誰がどう食べても崩れないケーキを設計しないといけないんですよね。そう考えると、ペクチンは耐熱性が高くて離水しにくいので使いやすいなと思います。

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ゼラチンリーフ400 / ジェリフ

ムースのような乳脂肪分を含むものにはゼラチンも使います。これも昔から変わらず、野洲化学の「ゼラチンリーフ400」一択(編集部注:同社は2019年より「ジェリフ」に社名変更)。

ー粉ではなく板ゼラチンを選ぶのはなぜですか?

うーん。難しいな。明確な理由はないですね。
だけど粉の場合、ゼラチンを溶かすために粉の量に対して5倍程度の水を加える必要があるんですけど、加える時になんかこう「今自分はお菓子のなかに水を入れてるんだ…」って感覚になってしまって。チョコレート扱う人間からすると、ミルキーさや濃厚さを目指してものづくりをする日頃の思考とは逆行した行為になってしまう気がしてなんか好きじゃないんですよ。まあ板ゼラチンだって水でふやかすので多少吸水はしてるんですけど…要するに気持ちの問題です(笑)。でも人の手でつくるものだし、そういう選び方もあるよなあと思うんですよね。

物流を意識する使い手の視点

ーその他に、材料を選ぶ上で気にされることってありますか?

そうだなあ。市場にどの程度流れている商品か、っていうのも実は大事な判断基準だと思います。

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グラニュー糖 / フジ日本製糖(画像提供:同社)

たとえば、グラニュー糖。この味が良い!というこだわりは特にないのですが、今使っているフジ日本製糖の「グラニュー糖」のようになるべくメジャーなものを選ぼうということは常に意識しています。逆にマイナーで流通しにくい商品って、つまり問屋の倉庫に眠る時間が長い商品とも言えるんですよね。そうなると湿気てダマになりやすいんです。それでは扱いにくいので、特に味や質感をそこまで重要視しない材料に関してはできるだけ流通量の多いものが良いなと思っています。

物の流れを気にするという点ではコンフィチュールに使う冷凍ピューレも同じです。ボワロンのオレンジピューレとアプリコットピューレを使っているのですが、ボワロンの冷凍ピューレというと、いわゆる定番の売れ筋商品ですよね。そういうものって取り扱ってる問屋さんが多いから、急な欠品が発生しても相談に乗ってくれる相手を見つけやすいんですよ。

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冷凍ピューレ オレンジ・エ・オレンジアメール / ボワロン
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冷凍ピューレ アプリコット / ボワロン

日々店を開けていると突然在庫が切れるということは往々にしてあります。そうした時に、値段は多少変わったとしても必ず仕入れられるという安心感は、僕にとっては選ぶ理由のひとつですね。

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決めた材料をもとに“絶対的なルセット”を組む。そのため、万が一そのなかの材料がひとつでも終売すればそのケーキは二度と店頭に並ぶことはないのだそう。

材料それぞれの味わいに関しては、正直そこまで強いこだわりはありません。先ほど乳製品の話でも「癖がないもの」という言い方をしましたが、僕の場合はまずつくりたいお菓子をゴールに描いた上で、そのために手元にある材料と加工法を組み合わせながら調整していくという考え方。材料本来の味わいを活かすのではなく、その材料をもとに自分で味をつくっていくというやり方なので、どこのピューレなのかとか、無糖か加糖かは結局その後の加工でいくらでも調整ができるのでそれ自体あまり重要じゃないんですよ。

それよりも、一度ルセットを組んだらその後いつでも安定的に仕入れ続けられる材料であることのほうが、僕にとっては価値が高い。街場のパティスリーとして「いつもの味がいつでも買える」ことはとても大事なことだと思うんです。それを実現するためにも、長く付き合える材料を選ぶことが店を営む上では大切なんじゃないかなと思いますね。

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ガトーフェルモの材料。植﨑シェフの言う通り、「いつでも安定的に手に入る」「困ったら担当者と話がしやすい」国内メーカーのものが大半を占める構成になっている。

La Rivi?re de Sable(ラ リヴィエ ドゥ サーブル)

〒305-0883 茨城県つくば市みどりの東21-13 https://riviere-de-sable.com/