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小商いのカタチ: 青果ミコト屋/ Micotoya House(神奈川県横浜)

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article : Momoka Kuriyama
pictures : Yuya Okuda

スモールビジネス(=小商い)を始めること、それは生き方の選択と言っても過言ではない。
どこで、誰と、何をつくり、どのように商売をしていくのか……
小さな選択を繰り返す過程でそれぞれのお店には物語が生まれていく。
自分らしい生き方を選んだ人たちの"小商いのカタチ"をめぐる連載。

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なんでも揃うスーパーマーケットが充実し、八百屋で野菜を買うこと自体、少なくなってきた現代に、それでもわざわざ遠くから多くの人がお店をめざしやってくる、一風変わった八百屋さん「青果ミコト屋」。週末には列をなすこともある、そのお店「Micotoya House」は横浜市青葉区の住宅街の中にあります。

レンガ造りの建物の入口ではジュージューパチパチと小気味よい調理音とともにおいしい香りが漂う。そこは八百屋だけどなんでもある、一風変わったお店です。建物の前の即席テーブルでは、ロス野菜を生まれ変わらせた“まかないランチ”がいただけたり、併設の「KIKI NATURAL ICECREAM」によるおいしいアイスクリームが待っています。アイス売り場の左右には、旬の青果とグロサリーが揃うショップに、盛りの野菜が入ってきては旅立っていく出荷場。野菜を買って帰るだけでない体験が詰まった各セクションを担うのは、代表の鈴木鉄平さんと、思いを分かち合うスタッフたち。鈴木さんが“ファミリー”と呼ぶそれぞれのスタッフの生き様がそのままお店の特徴になっています。

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蔦の絡むレンガ造りの建物の前に停まっているのは、移動販売時代のワゴン。イートインスペースに生まれ変わり、今もお客さんを迎え入れている

ミコト屋の始まりは、10年以上前。ワゴンカーで日本各地をめぐり、買い付けた野菜や果物を飲食店や個人への定期宅配や通販、ほか移動販売を通して届けるその姿勢が注目され、他にないカタチの八百屋さんとして広く知られてきました。あらためてその魅力はどこにあるのかを探るべく、まず代表である鈴木鉄平さんに訊きました。

手間の分だけ野菜と親しくなれる野菜売り場

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「僕たちは顔の見える生産者との関わりを大切に、日本各地の産地をめぐり直接青果を預かることを大切にしてきました。それが揺るがないミコト屋のスタンス。宅配と通販だけの頃から、ここ青葉台に実店舗(Micotoya House)を構えた後もそれは変わりません」

もともと農家を志したこともあったという鈴木鉄平さんと、マネージャーの山代徹さんは、場所を持たずに産地をめぐる旅をしながら野菜の通販・宅配を続け、活動10周年を迎えた2021年にここ「Micotoya House」をつくりました。

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「僕らの活動がすべて見えるようにしたいと考えて、自分たちの生まれ育った街で場所を持とうと思いました。ここは野菜を売る八百屋であり、野菜の出荷場であり、アイスクリームショップ。僕らが出会った生産者の野菜をできるだけいい状態で届けるべく、ミコト屋の取り組みすべてをスタッフが直接ことばで伝えます」

実際に野菜売り場に並ぶ今日の野菜たちを手に取りながら、ミコト屋の買い物の仕方について教えていただくと…。

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同じサイズに見える個体が測ってみると重さが全然違うことに驚いたり、それぞれの手触りを体感し、野菜と親しくなっていく工夫が凝らされた販売スペース

「まずお客さんはこの売り場で、すべての野菜を自分の手に取って選びます。人参や芋なら手に土がつくし、葉物なら手が濡れる。そうやってそれぞれに触れ、重さを手で感じるんです。自分で重さを測り、お会計のあとはその野菜を自分で包む。手間をかけて買う行為を通して、野菜と親しくなればなるほどに、おいしく使おうって気持ちになると思うんです。きっと使い切れなくて捨てることも減るだろうし、向き合い方が丁寧になるほど、いつもよりおいしく料理できるはず」

毎日通うことができなくても、ここでの一度の体験が野菜や食材との向かい方を少し変える気付きを与えてくれます。

押し売りではなく“推し”売り

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プラスチックフリーを掲げ、環境に配慮された売り場には、野菜たちはほぼむき出しの状態で並んでいます。野菜が生まれる土や環境への思いのあるスタンスですが、鈴木さんは「これは僕らのエゴでもある」と胸の内を聞かせてくれました。

「僕らは思いを持った生産者から野菜を預かっている身なので、いい状態でお客さんに届けるのが使命。野菜の乾燥を防いだり傷をつけないようにという観点では、プラスチックを使うべきという考えもあると思うんです。つまりプラスチックフリーは僕らのエゴかもしれない。そこは履き違えないように、生産者に対してできる最大限のリスペクトをしながら、売り場をつくります。だから葉物には、おくるみ(葉の感想を防ぐべく湿らせた布)をかぶせて守りながら、なによりできる限り早く売る! おしゃべりなスタッフがガンガン勧めますよ。おいしい状態で届けたいから、これは今食べておいた方がいい! を日々伝えるし、逆に味が変化していくことを、盛りから名残まで正直に伝えるようにしています。“押し売り”だけど、“推し”を売っているから、いいよね」

そう、ミコト屋での買い物は旬の野菜の推し活のよう。そんな“推し売り”の日々ですが、それでもやはり、お店を構えるうえでロスを出さないということは至上命題だったと鈴木さんは言います。

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「お店をするうえでは、やっぱり売り場がスカスカになってしまうと売れないんです。店を構えると決めたときから、ある意味ではロスがでることが分かっていたから、同時に、総菜やデリ、漬物をやろうか…と、いろいろ考えました。そこでアイスがぴったりだったんです。かわいいしおいしいし楽しい。キング・オブ・ポップなアイスが野菜を救う救世主になりました」

野菜の在来種や種の話、フードロス問題……と彼らが伝えたいことをストレートに言うとつい難しく聞こえてしまうからこそ、そんな壁を取っ払ってくれたのが、アイスだったのだそう。野菜と向き合う間口を広げ、さらにおいしく食べられる期限を最大に伸ばすアイスは、ミコト屋にとってなくてはならない存在になりました。

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「アイスを始めたら、ハンバーガー屋から廃棄している牛スジの相談が来たり、ベーカリーからパンの耳、ワイナリーからワインを絞った葡萄の残渣が届いたり……。気が付けば野菜以外も救うことになっていました。自分の店を救うために始めたものが、他の人を救うことにもつながって、思いもよらない広がりが嬉しかったです」

捨てられるものに光を当て、新しく価値を与えられるアイスは懐が深いと鈴木さんは言います。今では八百屋ではなくアイス屋として、フェスやイベントに出店することも増えてきました。

その人のカタチをした仕事

“八百屋として店舗を構えるならば、アイスだ”。そのビジョンに手足を与えてくれたのが、アイスの製造をしている坂場理恵さん。坂場さんのつくるアイスは、料理みたいな野菜の組み合わせや調理法で生まれています。じっくり火入れした玉ねぎやビーツの甘みが砂糖の替わりになったり、茄子の香りを立たせるために皮を直火で焦がしたり。

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春夏は7時くらいから連日アイスをつくる。アイスになる前の野菜は、蒸したり焼いたり、最適な形でゆっくりと火入れをして甘みを引き出す。手間暇がかかるゆえの、自然であたたかな甘みが広がる

「アイスになる食材はこちらからは選べなくて、急にやってくる子ばかり。だからこそ、これは使える、これは使えないと決めつけずに自分から歩み寄ることを心がけています。

もともと、ケーキ屋さんがつくる美しいケーキよりも、料理人がつくる前菜やデザートが好きだったんです。料理の応用力で、自由な発想で肩にとらわれずにつくるデザートって自由でおもしろい。私も料理の経験を活かして、野菜と果物、料理とお菓子、そういった境界線を持たずにアイスをつくることを心がけています」と坂場さん。

“あの子はもっとおいしくしてあげられたかな”なんて、坂場さんが野菜をまるで友達みたいに話すのを聴いて、鈴木さんの話していた“野菜と親しくなる”ということばが浮かびます。ミコト屋のメンバーはみな、野菜を“あの子”と呼んだり、とにかく親しげ。鈴木さんと思いや姿勢を共有し合っていることが伝わってきます。

1年半前に始まったロス野菜を使ったごはん“まかないランチ”も今、お店を支える大きな役割を担っています。キッチンで仕込み中の伊藤渉さんにもお話を伺いました。

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「僕はもともと野菜のことを知りたいと思って、ミコト屋にドライバー兼販売スタッフで入社したんです。当時マニュアル免許を持っていたのが僕だけだったから(笑)。野菜の接客をしながら、ロスとして売り場から出さないといけない子たちを捨てたくなくて、料理の経験を活かしてランチを担当するようになりました」

日々入れかわる野菜を来るそばから料理するライブ感。鈴木さんは「作るものがあって、材料を買うのではなく、あるものでつくる想像力が必要な仕事。渉にしかできないから、渉がいない日はランチは休み」と笑います。

「初めはロスを食べてもらえればいいなと思って始めましたが、いつしかランチを食べてもらうことが野菜購入のきっかけになれていました。食材の使い方や合わせ方を伝えながら食べてもらうことは、ミコト屋らしい届け方だと思っています。といっても難しいことは何もしてなくて。野菜がおいしいからシンプルに料理すればいい。そして、同じ季節のものがここには集まるから、寄せ集めても不思議と合うんです。各地方から集まる同じ季節のものってこんなにも調和するんだって僕自身新しい気付きをもらいました」と伊藤さん。

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土日と月~水でそれぞれ変わるまかないランチメニュー。この日は原木なめこやマコモダケを使ったいろいろキノコのレモンペンネ。野菜だけで摂ったと思えない出汁の深い味わいに驚く。売り場から捌けたシークワーサーもたっぷり使ってつくる

それぞれのメンバーが経験を活かし、野菜と親しく向き合いつくりだすものが、ミコト屋の新しい魅力や強みになっていく。鈴木さんとまなざしを同じくするファミリーが、ミコト屋の青果たちに新しい光を当て、お店を支えています。

お土産はグッドバイブス

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フードイベントや音楽フェスなど出店の誘いが絶えないミコト屋。月の半分ほどは店主不在ということも多いのだとか。「待っていてくれるみんながいるから出かけていける。赤字でも出かけていって、新しいことを持って帰ってくるのが僕の役目、お土産はグッドバイブスです!」とは鈴木さんのことば。

「お店の名前であるMicotoya Houseはその名の通り、僕たちの家にお客さんや仲間を招待する気持ちでつけています。だからこそ、住民たちがグッドバイブスでいないと。そういう意味では僕は仲間を社員というよりファミリーだと思っていて。家族って変な空気になっちゃうときもあるじゃない。だからこそ、嫌なことを言い合うんじゃなくて、いいとこを見つけよう、チームメンバーのいい働きを褒め合おうというのは、いつもみんなに伝えています」

売り場に並ぶピカピカの子、熟れすぎてアイスになる子、形がいびつでランチになる子、皮やヘタなどお出汁として生きる子…。ミコト屋に並ぶ野菜がひとつとして無駄にならずに活かされるように、ここではメンバーもそれぞれの個性とよい面に光を当てる。ミコト屋のおうちを訪ねると、そんな生き方に通ずるまなざしをお土産にいただくことができました。そうか、これがきっと鈴木さんのいう“グッドバイブス”なお土産なのですね。

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青果ミコト屋/Micotoya House
KIKI NATURAL ICECREAM
セイカミコトヤ/ミコトヤハウス
キキナチュラル アイスクリーム

住所:神奈川県横浜市青葉区梅ヶ丘7-8
電話:045-507-3504
営業時間:11:00~17:00 土・日・祝10:00~18:00
※まかないランチは土~水の11:00~15:00提供
定休日:木曜日
Instagram : @micotoya / @kiki_natural_icecream
HP : https://micotoya.com/