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小商いのカタチ: TANIGAKI(兵庫県但馬)

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article/pictures : Yuya Okuda

スモールビジネス(=小商い)を始めること、それは生き方の選択と言っても過言ではない。
どこで、誰と、何をつくり、どのように商売をしていくのか……
小さな選択を繰り返す過程でそれぞれのお店には物語が生まれていく。
自分らしい生き方を選んだ人たちの"小商いのカタチ"をめぐる連載。

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兵庫県北部の但馬で地元食材を使ったジャンルレスな料理とナチュラルワイン、自然派日本酒を扱う居酒屋「TANIGAKI」が毎年周年イベントとして開催する「タニガキフェス」が今年も11月4、5日の土日で開催された。TANIGAKI店主の谷垣伸太朗さんと双子の弟で城崎温泉でビストロ「OFF」を営む亮太朗さんの二人が、東京の店をたたんで地元の養父市八鹿町でTANIGAKIを再スタートさせたのは2005年のこと。二日間にわたる食のフェスティバルには、谷垣ブラザーズのこれまでの料理人としての確かな歩みを裏付けるように、全国から大勢の食に携わる仲間たちが集結した。

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繋がりが生んだ食の祭典

タニガキフェスの会場は、TANIGAKIから徒歩数分の距離にある元「山陰美人酒造」の酒蔵。大きな煙突が目印の瓦屋根の建物に着くと、建物の外まで人が溢れかえるほどの熱気に包まれていた。建物の内部から聴こえてくるDJによる軽快な音楽に引き寄せられて入口の暖簾をくぐると、間仕切りもない開放的な空間を埋め尽くすほどの人の数にまず圧倒される。多種多様なフードやナチュラルワイン、自然派日本酒のブースやグッズ販売など、両日ともに20を超すブースが出店し、来場者が各ブース前に列をなしている様はまさにフェスそのものだった。

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会場内の各ブースを行き来しながら出店者や来場者との談笑を楽しむ谷垣伸太朗さんは、こちらに気づくと「楽しめてますか?」と気さくに話しかけてくれた。「来場者は過去一番多いかもしれません。みんなこういう場所を求めていたんでしょうね」と少し照れたように伸太朗さんは微笑む。このタニガキフェスが始まった経緯を訊いてみると、チョークグラフィックアーティストの「チョークボーイ」との出逢いがきっかけだったという。

「10周年のタイミングで店舗ロゴを一新するなどして、より自分たちのお店のスタイルを表現していこうと考えた時に、チョークボーイにぜひ依頼したいと思ったんです。それで友達にチョークボーイことヘンリーさんを紹介してもらったんです。するとありがたいことに周年イベントでライブペイントまでしてもらえることになって、イベント会場として見つけたのがこの酒蔵でした。僕らとヘンリーさんだけではこの空間を持て余してしまうので、地元の飲食仲間たちを集めて始まったのがタニガキフェスです。毎年ヘンリーさんも来てくれて、ヘンリーさんの友達の青果ミコト屋さんやバーガーマニアさん、ウシオチョコラトルさんといったいろんな人を呼んでくれるようになり、ちょっとずつ大きくなっていった感じです。だから僕としてはタニガキフェスというよりも“ヘンリーフェス”だと思っているところもあります(笑)」

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チョークボーイ率いる手描き結社WHW!による似顔絵ブース
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青果ミコト屋が手がけるクラフトアイスクリームブランドKIKI natural Ice cream
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天然酵母のバンズと、国産牛100%のパティ を使った本格グルメバーガーが売りのバーガーマニア
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「健全でヘルシーな中国料理」を掲げる中華可菜飯店
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但馬の自然の営みを大切にする自然栽培歴35年の農家、西村農園
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国産食材にこだわる大阪中津の中華粥専門店Rice meals FoTan(フォータン)
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「日本の田んぼを守る酒蔵になる」を使命にお酒づくりをする福島の仁井田本家
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USHIO CHOCOLATLの中村真也さんとヘンリーさんの即興ライブパフォーマンスも恒例となっている

原点回帰を教えてくれたワイン

TANIGAKIはもともと、双子の弟の亮太朗さんとともに東京・中目黒で始めたダイニングバーが始まりだった。大学進学で上京した伸太朗さんは、夜間の専門学校に通って料理を学びながらカフェや居酒屋でアルバイトもこなし、大学卒業後は代々木上原のフレンチを経て2000年、25歳の頃にTANIGAKIをオープンした。東京が好きだったので但馬に戻ってくるつもりはなかったという伸太朗さんだったが、母親の不幸で兄弟二人地元に戻ることを決めた。

「僕が生まれる前からこの建物の1階で祖父が寿司屋をやっていて、父親と母親が2階で喫茶店とスナックをやっていたんです。そういう環境で育ってきたので、飲食を仕事にするのは僕にとって自然な流れでした。東京にいた頃はカフェ文化が好きだったのでそういう雰囲気のお店にしていたのですが、2005年に再びTANIGAKIをスタートさせるにあたって選んだスタイルは居酒屋。いろんな人にまず来てもらわないことには始まらないので。当時は今のようにSNSもなかったし、神戸や京都などの都市部からも遠くて、外から人の入ってこない閉ざされた地域だったので正直絶望的でしたね(笑)」

小さな町の居酒屋だったTANIGAKIが、今や同業者たちから一目置かれ、県外からも客が集まるお店になっていったその発端はなんだったのだろうか。そのヒントを教えてくれたのは城崎温泉でビストロ「OFF」を営む弟の亮太朗さんだった。

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OFFとTANIGAKIの共同ブースではナチュラルワインの販売も

「僕はTANIGAKIが8年目の時に店を抜けて、さらに北の豊岡市での開業を経て2018年に城崎温泉でOFFをオープンしました。ナチュラルワインを提供したくて自分のお店を始めたんですけど、車社会なので全然ワインが出せない。城崎温泉は街歩きの文化があり昼飲みをする人も多いということもあって、思い切ってそっちに移ったんです」

ナチュラルワインは、添加物や保存料などを使わずに、無農薬や有機栽培で育てられたブドウを使ってつくられる自然派ワインを指す。亮太朗さんと伸太朗さんは、ワインづくりの原点回帰とも呼べるナチュラルワインのムーブメントをいち早くキャッチしたことが今の二人のスタイルに繋がっていると言う。

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旅を重ねる中で出会った日本のナチュラルワインを取り揃えるKIKI WINE CLIB

「TANIGAKIを再スタートして3年目くらいにナチュラルワインの存在を知ったのですが、当時はまだ扱っている酒屋もほとんどなくて、ネットで探して買っていました。まだ当時のナチュラルワインは発酵によって生じる臭いが強くて今みたいに綺麗な仕上がりのワインではなかったのですが、他のワインにはないおもしろさがあり、ごく一部の人で盛り上がっていました。ナチュラルワインを扱っているお店には遠くてもみんな足を運んでいたし、そうやって同時多発的に興味を持った人同士が出会っていったんです。一種のカウンターカルチャーですよね。ナチュラルワインという特別なものを扱うようになってから、食材もちゃんと見直さないといけないなと思って、地元の農家さんたちに目を向けるようになりました。大切なことをナチュラルワインが教えてくれたんです」

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お店に込めた願い

ナチュラルワインや日本酒も含め、TANIGAKIが扱う食材の9割以上は地域の生産者によるもの。そして地元の美味しい野菜や食材の持ち味を一番良いカタチで引き出して食べてもらいたいという気持ちから、TANIGAKIの料理にはジャンルがない。しかし地元に戻ってきたばかりの頃はその良さにもなかなか気づけなかったと伸太朗さんは振り返る。

「旅する八百屋『青果ミコト屋』の鈴木鉄平さんが来てくれて、一緒に農家巡りをしたドキュメンタリームービーを逗子映画祭で上映してもらったり、『ザ・ブラインド・ドンキー』のジェローム・ワーグさんや『BEARD』の原川慎一郎さんといった憧れのシェフの方たちが来てくれて、但馬の豊かさというものをあたりまえのように再評価し、いろんな人に伝えてくれたんです。そのおかげで遠方から来てくれる人も増えたし、今では自信を持って但馬の風土や食材を素晴らしいものだと胸を張れる。周りの人たちが教えてくれたんです」

TANIGAKIは今年4月に店舗を大幅リニューアルした。60席あった客席を3分の1に減らし、店舗入口には地元野菜の売り場スペースが設けられ、かつて母親が店を営んでいた建物2階部分には、伸太朗さんの奥さんによるフローイングヨガサロン「Hwyl(ヒュイル)」がオープンし、新しい命が吹き込まれた。

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「城崎温泉にOFFができて、TANIGAKIもちょっとずつ地元の生産者の人たちとの繋がりが生まれていく過程で、僕らがやりたいカタチをもう一度表現しようと思ったんです。生産者の人たちから直接仕入れる野菜は量がまかなえないことも多く、だったらぐっと席数を絞ることで自分たちの目が届く範囲のお客さんに対して料理を届けることにしました。地元で頑張っている生産者の人たちを紹介できるように、野菜の販売スペースをつくろうと言うところから今回の改装は始まっています」

より洗練された空間に生まれ変わったTANIGAKIだったが、伸太朗さんのやりたいことはおしゃれでかっこいい店づくりではない。タニガキフェスが実現してきたような、より深くこの地域や全国の仲間たちと繋がれる場を日常につくりだそうとしていた。伸太朗さんはこう続ける。

「東京でカフェブームを経験した時にも感じたことですが、飲食店から生まれるもの、エネルギーのようなものってありますよね。そこに集まろうとする人のエネルギーだったり、食だけではない様々な要素が合わさることで生まれる場の力だったり、内装やそこに流れる音楽といったお店を構成するパーツすべてをひっくるめたものに僕は魅かれてこの世界に入ったので、この場所から日々何かが生まれることを願っているんです」

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10周年を祝うタニガキフェスで、チョークボーイのヘンリーさんはTANIGAKIを象徴するコピーとして“EAT LOCAL LOVE YOUR NEIGHBOR”の手描き文字を贈った。そして今回のリニューアルに際して新たに描きおろした看板には、“EAT LOCAL”ではなく“PROUD LOCAL”とあった。東京から戻り、18年間地元で根を張り続けてきたTANIGAKIにとって、ローカルとは単に都市との比較を表す言葉ではない。その土地固有の価値や魅力を表した誇るべき言葉なのだと教えてくれる。

タニガキフェス2日目の朝、イベントが始まるまでの時間を使ってTANIGAKIの店内には新たにヘンリーさん率いるWHW!のメンバーによってペイントが施された。改装後のまっさらな壁にこの日描かれたのは、“Local” “Organic” “Friends”の3つの言葉だった。

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二日間のフェスを終え、改めて今回のタニガキフェスの出店者の顔ぶれに目をやると、谷垣伸太朗さんと亮太朗さんとヘンリーさん、3つの点が交差して生まれた小さな輪が、水面に生じた波紋のように着実に全国に広がっていることは一目瞭然だった。

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WHW!(鎌倉)/ 青果ミコト屋(横浜)/ USHIO CHOCOLATL(尾道)/ at the table est 2015(愛知)/ バターのいとこ(栃木)/ バーガーマニア(東京)/ suba(京都)/ メゾン サンカントサンク(東京)/ 仁井田本家(福島)/ 高崎のおかん(福島)/ fragrance yes(東京)/ Rice Meals Fotan(大阪)/ シチニア食堂(宝塚)/ KIKI WINE CLUB(埼玉)/ Botanical life(兵庫)/ 中華可菜飯店(東京)/ 流しのビリヤニ(東京)/ TAREL(京都)/ PARADI(城崎温泉)/ 弥栄窯(京丹後)/ PORCO(名古屋)/ csew(神戸)/ REAL TEMPO(京丹後)/ CIRCLE&LINE(但馬)/ TRANSFER (但馬)/ Manjgiare(但馬)/ 西村農園(但馬)/ SORA農園(京丹後)/ まるいち(但馬)

TANIGAKI
住所:〒667-0021 兵庫県養父市八鹿町八鹿1645-1
電話:079-662-2946
営業時間:11:30-15:00/17:30-22:00(月金はランチ休み)
定休日:日曜日
Instagram : @tngk_tanigaki / @off.kinosaki / @hwyl_yoga