エコール・ヴァローナ 東京の使命
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Article:Yuka Nakano
Pictures:Eisuke Asaoka
「最高の素材を通して食の世界を牽引する」。フランスのショコラブランド、ヴァローナは、1989年にショコラ専門技術校「エコール・ヴァローナ」を本国で創設した後、2007年に東京校を開校した。同校のディレクター兼エグゼクティブシェフを務めるファブリス・ダビドゥ氏が語る「エコール・ヴァローナ 東京」の使命とは。
東京という拠点に込められた意味
1986年、ヴァローナはハイカカオ70%のチョコレート「グアナラ」を発売しました。発売当初、フランスのシェフたちは「おいしいけれど、この製品をどうやって使えばいいのだろう」と使い方に困っていました。そこにヴァローナは気づきを得ました。つまり「使い方が分からなければ、ヴァローナが専門技術校を作り、シェフに製品の扱い方とともにヴァローナの理念を伝えればいいのだ」と。そうして1989年、エコール・ヴァローナがフランスで誕生しました。
当時のヴァローナにとって日本の市場はとても重要でした。約18年前、日本にショコラティエブームが訪れ、ボンボンショコラの作り方やお店作りを学びたい人であふれていました。このような状況を受けて2007年に日本のパティシエの技術向上、ショコラティエの育成のために「エコール・ヴァローナ 東京」を開校しました。
今では、エコール・ヴァローナ 東京はアジア各国の活動の拠点として、日本をはじめ、中国、韓国、台湾、香港、シンガポールなど、年間1,500人以上のショコラティエやパティシエに技術ノウハウを指導しています。アイスクリーム、ショコラトリー、ヴィエノワズリー、レストランデザートなど、各分野の第一線で活躍するシェフ陣や、アジア各国に駐在するエコール・ヴァローナのシェフが講師となり、それぞれのマーケットに合わせた講習会を開催しています。アジアのパティシエが交流し、互いに刺激を受け合い、新たなアイデアや活力が生まれる場としても進化を続けています。
常に新しいアイデアを追求し、それを体現することで、時代を切り拓くモチベーションを育むこともエコール・ヴァローナ 東京の使命です。
若い世代に届けたいもの
現在お店を構えている日本人シェフの多くはフランスで修行した経験を有しています。しかし若い世代にとってフランスで学ぶ機会は経済的理由から難しい。ビザの取得も簡単ではありません。そこで東京校では25歳以下のプログラムも用意しています。また、多くの現場では、先輩から直接技術を学べる機会が限られていることもあり、複数の人から教わることで、技術の伝達にばらつきが生じることがあります。たとえば、同じ店舗内でも、テンパリングの方法について異なるアプローチが共有されることがあり、学び手にとっては判断が難しくなる場面もあります。
ここにはボンボンショコラ講習1、2など、初心者、ベテラン向けなどというレベル分けはありません。知識・技術は持っていても、それが「なぜそうなのか」を理解していない、だから説明が難しい、という方も多いのです。だからこそ、チョコレートのノウハウを持っている我々は、研修を受けたパティシエが他のパティシエにもその方法を分かりやすく伝えることができるようにプログラムを組んでいます。誰しも技術が不安なままにお店には立ちたくないはず。我々が研修を行う目的は、正しい技術をわかりやすく伝授するだけでなく、才能と情熱溢れる未来の若いパティシエたちに自信を与えることでもあるのです。
さらに、各店舗の技術ノウハウの向上や、店舗運営の効率化をサポートすることも、エコール・ヴァローナの大切な役割のひとつです。
チョコレート市場を繋ぐ使命
チョコレートをカカオパーセンテージで区分けしていた時代もありましたが、ヴァローナにおけるカカオパーセンテージの定義は、そのカカオ豆が持つポテンシャルをヴァローナの独自技術によって最大限に発揮できる値のことを指します。「グアナラ」の場合はカカオ豆を砂糖で30%まで希釈した値が最も風味を発揮するため70%と表記しています。カカオパーセンテージが高ければ高いほど、そこに含まれている固形分の量も増えます。その固形分から色・味・香りが出てくるのです。パーセンテージが高いものは必然的に価格も高くなってきますが、固形分の量が多いため、少量でもしっかりとした風味が出ます。パティシエにとって大切なことはハイカカオを使うことでも、1キロあたりの価格が高いものを使うことでもなく、そのチョコレートを「レシピとしてどう活かすか」という視点です。
学びの熱量と未来への展望
エコールを受講したパティシエの中には大阪からバスで来てくれた方もいらっしゃいました。東京に朝5時すぎに着くと山手線を2、3周して研修時間まで待ってくださったそうです。そのような学びの情熱に我々講師陣はそれ以上の情熱で応えなければなりません。ここに来れば必ず新しいアイデアや夢を持ち帰っていただけるよう、講師陣は常により良いエコールでの体験をモットーに、全力で研修に臨んでいます。
カカオ価格の高騰が続く今だからこそ、我々にはチョコレートの価値をあらためて伝え直す使命があります。チョコレートができるまでには多くの時間と人の手を介します。サステナビリティやトレーサビリティといった背景を、エコールで学ぶパティシエに伝え、チョコレートのおいしさの背景を正しく語れるパティシエを育成することがブランドとしての責任でもあると捉えています。そのためにパティシエだけでなく、消費者と最も近い存在である販売員向けの講習も行なっています。
ヴァローナは単なるチョコレートメーカーではありません。創業者である一人のチョコレート職人の情熱と探求心から生まれたショコラブランドです。ヴァローナが展開するチョコレートを最良の状態で味わっていただくためには、世界中のパティシエに、その魅力を最大限に引き出す技術と感性を持っていただくことが欠かせません。その力を高められるよう、エコール・ヴァローナは学びと成長の場として存在しています。
<プロフィール>
ファブリス・ダビドゥ(Fabrice DAVID)
ルレ・デセールの名店「ヤニック・ラブ」でシェフ・パティシエとして頭角を現し、1999年に来日。2001年にフレデリック・ボウに導かれヴァローナへ。2007年にはエコール・ヴァローナ 東京校の創設プロジェクトを全面的に牽引し、開校へと導く。東京校の開校以来、ディレクター兼エグゼクティブシェフとしてその発展に尽力し、現在はアジア各国に駐在するヴァローナのシェフ・パティシエ陣を統括する。日本はもとより、アジア、ヨーロッパから年間1,500名以上のプロを迎え、日本から着想を得て育まれた独創的なアイデアとノウハウ、そして卓越した製菓技術の普及に努めている。
エコール・ヴァローナ 東京
1989年にフレデリック・ボウによって創設されたショコラ技術専門校「エコール・ヴァローナ」。ショコラに特化した専門知識とノウハウを集結させ、プロフェッショナルやグルメのために発想や知恵を共有し、製菓界に新たな価値を創造することを使命としている。2007年、世界初の姉妹校として東京に誕生した「エコール・ヴァローナ 東京」は、日本国内はもちろん、中国、台湾、韓国、香港、オーストラリアなど、アジア各国で年間1,500名以上のプロのショコラティエやパティシエにテクニカルサポートを提供。洗練された設備環境のもと、ショコラトリーや製菓の理論、実践的なテクニックを学べる多彩なプログラムを用意し、ヴァローナ専属講師陣に加え、世界の第一線で活躍する特別講師による講習も展開している。
ヴァローナ
1922年にフランス・ローヌ地方で創業以来、カカオの味わいにこだわり続け、世界中の生産者と二人三脚でカカオ栽培を行うとともに、独創的なアイデアと技術により、最高のチョコレート素材へと昇華させてきたヴァローナ。美食の世界をけん引する世界中のトップシェフなど、プロフェッショナルたちから認められている。さらに、チョコレート専門技術校「エコール・ヴァローナ」にて多彩な研修プログラムを提供すると同時に、洋菓子の世界大会“クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー”を創設し、実行委員を務めるなど、チョコレートの芸術性・文化性を高める活動に取り組んでいる。ヴァローナは環境や社会に配慮した事業活動を行い、説明責任や透明性など厳しい基準を満たしたサステナブル(持続可能)な企業にのみ与えられるB Corporation®を取得している。