スモールビジネスのための問屋サービス オーダリーへようこそ

©marubishi linked Co.,Ltd

ダン・バーバー[土を育てる一皿]

クリップボードにコピーしました

後編「BLUE HILLを求めて」はこちら

Article:Takumi Saito

日本語|ENGLISH

Co01005 Co01005
Photography: Jordan Sapally

ダン・バーバーというシェフがいる。

ニューヨーク州北部の「Blue Hill at Stone Barns」とマンハッタンの「Family Meal at Blue Hill」という2つのレストランのオーナーシェフであり、80エーカー(約32万平方キロメートル)の敷地面積を有する「Stone Barns Center for Food&Agriculture」という野菜畜産農場・農業研究施設・食の教育施設と「Rhizome」という地域の食に関するリサーチおよび事業育成を行う会社の共同経営者であり、種子会社「Row 7 Seed Company」の共同創業者であり、『食の未来のためのフィールドノート「第三の皿」をめざして』の著者である。

Co01001 Co01001
Photography: Jordan Sapally

「Farm to Table」は流通スキームを表す言葉に過ぎない。農場から食卓へ。20世紀から続く食の大量生産・消費・廃棄に地産地消は“最短”の解答だった。生産・加工・流通の技術発展は地球の裏側にも食材を届けることを可能にしたが、地球環境を蔑ろにしてきた。一方で「Farm to Table」に基づけば食材の鮮度と安全性を保つことができるし、理念に共感した人々のロカヴォア精神によって、その地域で繰り広げられる農業は“持続可能”へと一歩近づくし、言葉の持つエコロジカルな響きすら心地良い。ついに人類は完璧なフード・ディストリビューション・システムを発明したかのように思えるが、ダン・バーバーはそれに異を唱える。つまり、結局のところ、人類の欲望に農業が奉仕している構図には変わりないのではないか? と。

元来人類は農業に食べさせられてきた。野菜を育てるために牛を放牧し、牛を育てるために鶏を飼育し、農場が森林に侵食されるのを防ぐために羊を飼った。明日の食を得るために自然を育てた。人々が食べたいもののため、シェフが作りたいもののために農業は存在していなかった。その時期に採れた野菜や穀物を食べた。土が枯れないように輪作を発明、工夫した。豊作を神に祈り、収穫に感謝した。農業は人類の地球信仰の証であったのかもしれない。

ダン・バーバーは「Third Plate(第三の皿)」という料理の概念を提唱する。その一皿が生み出された背景にある、地球環境を重視する考えだ。彼は地球の負担となるような食材は使わない。Blue Hillの農場と、彼の理念に共鳴する提携農場でのみ収穫できる食材をレストランで扱う。その一皿の奥にあるのは地球そのもの。「Farm to Table」、いや「Table from the Mother Earth」と言うべきか。

料理は土壌の健康から始まる。

Co01002 Co01002
Photography: Jordan Sapally

INTERVIEW
ダン・バーバー[土を育てる一皿]

——Blue Hill at Stone Barnsの農場について伺います。まずは野菜から。日本では見た目が悪い野菜は市場の選定で「規格外」とされ、流通に乗ることなく、その多くが廃棄されます。野菜の規格についてどう考えていますか?

市場の基準に合わせて野菜の見た目が完璧である必要はまったくありません。大切なのは「おいしい」ことです。キッチンでも畑でも、私たちは「均一性」よりも野菜の「多様性」に美しさと価値を見出しています。

——輪作はどのように?

季節によりますが、常に数十種類の野菜を育てています。私たちの輪作システムは土壌肥沃度を高め、合成資材を使わずに病害虫を管理するよう設計されています。作付け計画は毎年異なりますが、基本原則は「同じ植物科が少なくとも七年間は同じ土に戻らない」ことです。輪作には穀物、豆類、アブラナ科、ネギ類、被覆作物が含まれています。

——あなたは「現代の農業はシェフが調理したいものや消費者が食べたいものに応じて動いている」と語ったことがあります。「Row 7 Seed Company」では種子を開発し、栽培し、調理し、農家やレストランと共有しています。この意図を教えてください。

食の市場を形成するのは生産者から消費者に届くまでの流通です。長い間、種子改良の主な目的は「収穫量」と「均一性」であり、それは工業的なサプライチェーンにとって合理的でした。しかしその結果、入手しやすい食べ物が、最も風味も栄養も乏しいものとなってしまいました。Row 7 Seed Companyの取り組みはその方程式を逆転させる試みです。すなわち「風味」と「栄養」を種子改良の中心に据え、その上で農業的な条件を整え、現実的な規模で栽培でき、かつ農家の利益にも貢献できる仕組みを模索しています。

Co01003 Co01003
Photography: Elena Wolfe

——酪農についてお聞きします。近隣の酪農場から引退した乳牛を受け入れている狙いは?

これまでに引退したグラスフェッド(牧草飼育)乳牛を少数受け入れ、レストランで提供できる「未開拓のタンパク源」としての仕上げ方法を試験し続けています。月毎に固定数を仕入れているわけではありません。研究が目的です。飼料の質が動物の健康、肉の風味や栄養にどのような影響を与えるのか。栄養豊かな飼料を長年与え続けることで、彼らの肉には独特の風味と栄養価が備わることが判明しました。私たちの研究は、牛の特性を最大限に引き出すことに焦点を当てています。

——今年初めて搾乳に成功したと伺いました。画期的な成果のように聞こえたのですが、このことについて詳しく教えてください。

これは「画期的な成果」というよりも、プロジェクトの自然な進化だと捉えています。私たちは引退したグラスフェッド乳牛の可能性に注目してきました。つまり、もはやミルクを十分に出さなくなった牛たちを適切にケアすることで、おいしい牛肉を生み出せることを示してきたのです。最近になって、提携している酪農家から完全に搾乳を終えていない牛を受け入れるようになりました。そのために「Stone Barnsで初めて搾乳を行なった」という言葉に繋がったのです。この意義は私たちが自らの敷地内で生産されたミルクを使えるようになったことを指しています。さらにこのミルクを牛の健康状態や最終的な肉品質の指標として活用できる機会を得られました。例えば脂肪とタンパク質の比率といったデータが、肉の風味や栄養価にどう影響するのかを知ることができます。あるいは牛の健康を最適化するために、寿命の終盤に必要とされる要素を把握できるかもしれません。

——鶏を二つのグループに分けて飼育されています。

はい、一つは研究群で、もう一つは対照群です。研究群には食品廃棄物を基にした実験的な飼料を与えています。具体的には野菜の切れ端、賞味期限切れの乳製品、ビール醸造所から出る麦かすなどです。対照群には標準的な有機穀物飼料を与えています。私たちは卵の風味だけでなく、栄養成分も比較し、廃棄物を利用した飼育システムが農家を支え、食品ロス削減にどのように貢献できるかを検証しています。

——「サステナビリティ」という言葉がトレンド化し、時折ファッションのような響きすら感じます。あなたが定義するサスティナビリティとは何でしょうか?

Co01004 Co01004
Photography: Elena Wolfe

私はシェフであるため、料理におけるサステナビリティについてのみ申し上げます。私自身、その意味の捉え方は年々変化してきました。今の考えでは「持続可能な料理」とは「有機農家の仕事」によってもたらされると考えています。有機農家が土壌を健康に保つために、栽培する作物や飼育する動物を“活かす”ことが持続可能性に繋がります。レストランにおいて、土壌の健康を最重視して得られた食材は、必ずしもメニュー映えするものではありませんが、ゆっくりと着実に「土壌を育てる食文化」を築くことに繋がると信じています。シェフの仕事は、そうした食材の魅力を引き出す料理を作ることなのです。

——「オーガニック(有機)」という言葉もまた、その言葉の多用が曖昧なイメージを作り上げていると感じます。あなたにとってのオーガニックを教えてください。

私は「Real Organic Project(リアル・オーガニック・プロジェクト)」の定義に共感しています。Real Organic Projectとは「USDA(米国農務省)」のオーガニック認証とは異なる有機農家主導によるオーガニック認証のことです。そこではオーガニックとは「土を養う」ことを基本とし、土壌・植物・動物・人間といったシステム全体の健康を反映するべきものと定義されています。単に化学物質を使わないということではなく、土地を再生し、生態系の多様性を支える実践が必要なのです。

——食に関心の高い方だけでなく、より多くの消費者が、あなたの提唱する「第三の皿」を理解するためには何が必要ですか?

鍵は「手頃さ」です。食材の風味と土壌の健康を中心に据えたシステムを構築すれば、おいしい食べ物は一部の人の専有物ではなく、より多くの人のもとへ届けられると信じています。

Blue Hill at Stone Barns

所在地:630 Bedford Road, Tarrytown, NY 10591
HP:https://bluehillfarm.com/
ダン・バーバー Instagram:@chefdanbarber
Blue Hill Farm Instagram:@bluehillfarm