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100人の仕入れリスト #012 根本理絵(ka ha na -菓葉絆-)

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article:Tomomi Sumida
pictures: Yuya Okuda

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製菓・製パンに携わる人の数だけ、その人にとって欠かせない材料や道具、礎となっているような大切なものがある──。 常に仕入れリストに居座っているような必要不可欠で大切な材料を、製菓・製パンのシェフにいくつかご紹介いただき、それらの材料の用途や魅力、その材料にまつわる思いを語っていただくシリーズ企画『100人の仕入れリスト』。

今回お話を訊いたのは、東京都三鷹市にあるka ha na -菓葉絆-の根本理絵シェフ。今や三つ星となった西麻布のフレンチレストラン「レフェルヴェソンス(当時は一つ星)」で26歳の若さでシェフパティシエを務め、フランス菓子の技術をベースに、レストランのデセール作りで磨いたセンスを発揮しながら、手作りのお菓子のおいしさを多くの人に知ってもらいたいと、オンラインなどでも積極的に発信を行う。

「人と人、自然と人が繋がるお菓子」をコンセプトとする根本さんにとって、欠かせない材料や道具とは。

<プロフィール>
根本 理絵(Nemoto Rie)
1987年生まれ、京都府出身。辻製菓専門学校で製菓と製パンを学び、25歳の時に大阪・北新地「パティスリー ケ モンテベロ」でシェフパティシエを務める。2014年から、当時ミシュラン一つ星だった(現在は三つ星)「レフェルヴェソンス」で3年シェフパティシエを務め、育児休業を挟みつつ、2018年からは調布の薪火料理レストラン「Maruta」にてデザート開発とシェフパティシエを務める。並行して、自身のブランド「ka ha na -菓葉絆-」で活動した後、2024年8月に実店舗をオープン。同年12月に『焼きたてがおいしいフィナンシェとスコーン(主婦と生活社)』を上梓。

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人と人、自然が繋がる菓子

「自然と繋がる」をコンセプトにしたka ha naという菓子店を東京・三鷹で営んでいます。過去の勤め先であるレフェルヴェソンスで生産者さんの元をたずねる機会が多かったこと、Marutaのエディブルガーデン(食べられる庭)で草花の成長を毎日感じていたことが、このコンセプトに繋がっています。どちらのお店も素材をとても大切にしていて、身近な食材や季節の果物などから着想を得て一皿に仕上げます。それまでカタログなどを見て取り寄せた材料から作ることが多かったので、材料を探すところからお菓子を作っていくのは新鮮でした。

たとえば春になって、自分の手で桜を摘んで塩漬けを作ると「咲き切った桜より、つぼみが開きかけた咲き始めの桜の方が香りが強い」など、それまで意識してこなかった季節の移り変わりに気付くんです。そうやって毎日「今日は芽が出てきた」、「暖かくなってきたから花が咲いたな」、「この前の花が散って、実になった」などを感じていると、極端かもしれないんですが地球の“すごさ”みたいなものを肌で実感するようになって……。小麦粉ひとつとっても、育てている人がいて、種を蒔くから芽が出て、収穫されて粉になるから、私が手にすることができる。材料は、当たり前にあるわけではない。全部に背景があって、自然と繋がっていくという気付きが、ka ha naで作るお菓子一つひとつに繋がっています。

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実は去年は、8月のオープン後すぐに初の著書のレシピ出しと撮影に入り、12月はka ha naとして迎えるはじめてのクリスマスなので張り切って仕込んでと、目が回るくらい忙しい年でした。営業日は朝6時に来て、夜は子供の学童のお迎えに間に合う18時50分にお店を飛び出して、帰宅後に急いでご飯の支度をして子供2人に食べさせ、お風呂に入れて、宿題を確認して、寝かしつけ、みたいな日が続くこともあって。でもこれは私の都合で、私がやりたくてやっていること。近隣にはおいしいお店もすごいシェフもいっぱいいる中で、私のお菓子を「好き」だと言って求めてくれる方がいるから、今はやれるだけやってみたいんです。この先も地域に根差すお店になれるよう、今が頑張り時です。

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essentials of 根本理絵

  1. 1. 特宝笠/増田製粉
  2. 2. エクリチュール/日清製粉
  3. 3. アルゼンチン産オーガニックシュガー
  4. 4. マルコナ アーモンドパウダー皮なし
  5. 5. ブルボン種バニラ/ヒューモルガン
  6. 6. カカオマス/アマゾンカカオ
  7. 7. シエラネバダ64%&トゥマコレチェ53%/カカオハンターズ

1.特宝笠/増田製粉

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生地にきめ細かさとしっとり感がほしい時は、特宝笠を使っています。ご家庭で作るならスーパーバイオレットなどでもよいのですが、口の中ですっと溶けるような焼き上がりはやっぱり特宝笠がいちばんしっくりきます。看板商品のフィナンシェや、ショートケーキのジェノワーズに使っています。ちなみにフィナンシェはオーバル型で焼いています。生地量が多く入るオーバル型は焼くと厚みが出てふんわりするので、しっとり感のある特宝笠との相性がバッチリでお気に入りです。

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2. エクリチュール/日清製粉

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とても使いやすくて、大好きな粉です。振るいやすくて仕込みやすいし、食感もいい。クッキー全般やガレットブルドンヌに使っています。特宝笠とエクリチュールは、私の中で「無くなったら困る粉ツートップ」です。お店をはじめる時は国産小麦粉がいいかな、とも思っていたんですが、エクリチュールは代わりのものが見つかりません。容量が最大10kgのものしかないので、どうして他の粉みたいに25kgがないんだろうとずーっと思っています(笑)。

レシピ本が好きで、エクリチュールは小嶋ルミさんの本で知りました。プロ向けの分厚い本も読みますが、一般家庭向けの本も考え方やシェフによる教え方の違いが面白くて、けっこう読んでいます。

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3. アルゼンチン産オーガニックシュガー

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※アルゼンチン産オーガニックシュガーは2025年4月25日より生産工場とパッケージが変更となっております。

私、実は甘すぎるお菓子が苦手なんです。日持ちが長いお菓子だと砂糖をたっぷり使うのは仕方ないんですけど、それでも出来るだけ優しい甘みにしたくて使っているのがこのオーガニックシュガーです。きび砂糖もクセがなくて好きなんですが、このオーガニックシュガーはさらにクセがなくて、しかも色が薄いのもよくて。流石にシャンティにきび砂糖を入れたら茶色っぽくなりますが、これは色味に影響しません。ムラングシャンティも生クリームも砂糖を入れる量がそんなに多くないというのもあるけど、甘みも穏やかなので気に入っています。グラニュー糖より割高なので「全部オーガニックシュガーにしたら、お店潰れちゃうかも?」って思っていたけど、意外とそうでもないのでおすすめします(笑)。

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4.マルコナ アーモンドパウダー皮なし

フィナンシェには、もうずっとこのアーモンドパウダーを使っています。ka ha naはオンライン販売からはじまったブランドということもあり、フィナンシェは袋詰めにしても1週間はおいしさを持続させたくて。

レストランで焼きたてをすぐに食べてもらえる状態で提供するなら、醗酵バターをしっかり焦がせば香りもよく、焼きたての表面のカリッとした食感と中のふわっとした食感のコントラストが美味しさにつながるので、このアーモンドパウダーじゃなくてもいいかもしれません。でも時間が経って焼きたての香りや食感がなくなってもおいしいと感じるようにするには、アーモンドの香りとしっとり感、口どけが大切だと思うんです。それにはこの油脂分が多くてパサパサしないアーモンドパウダーが欠かせません。お客さまの手元に届いた後も、どんな味の着地点にしたいか考えて試行錯誤する経験は、実店舗をオープンした今でも役に立っています。

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5. ブルボン種バニラ/ヒューモルガン

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レフェルヴェソンス時代の後輩が以前ヒューモルガンで働いていて、彼女きっかけで使うようになりました。バニラは大好きなので、使い終わった鞘も無駄にせず、乾燥させて砕いてクッキーやマドレーヌ、フィナンシェなど色々な焼き菓子に「魔法の粉」感覚で入れています。このバニラはそこまで高くないのに品質はすごくいいのでケチらずに使えて、バランスが優れたアイテムだと思います。お高い化粧水をちびちび使うより、お手頃で高品質なものを惜しみなく使いたい私のような方にはきっとピッタリです。

6. カカオマス/アマゾンカカオ

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ショコラティエの方に比べたら私はそんなにチョコレートには詳しくないんですが、それでもこれはカカオのフルーティな香りがダイレクトに感じられて、ただただおいしいです。ka ha naではネージュショコラというケーキで使用しています。チョコレートの味が前面に出るようなものは、頼りになりますね。

アマゾンカカオの太田哲雄さんは以前からの知り合いで、有難いことに今でも直接発注させていただいています。レストランを経験したことで、色々な出会いや繋がりが生まれたことは、私にとってかけがえのない財産です。

7. シエラネバダ64%&トゥマコレチェ53%/カカオハンターズ

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レフェルヴェソンス時代にカカオハンターズのチョコレートの食べ比べをさせてもらったことがあって、その中で今でも気に入って使っているのがこの2種類。カカオハンターの小方真由美さんは、最近ka ha naが出た催事にも足を運んでくださって嬉しかったです。

シエラネバダ64%はけっこうビターですが、抜けるような酸味があってお菓子に仕上げた時に化ける印象があります。トゥマコレチェ53%はミルク感があってそのままかじってもおいしくて、飽きない味。ずっとつまみ食いできちゃいます。生チョコやマカダミアチョコレートなど、あれこれ手を加えないものに使うことが多いです。どちらも食べ疲れない、体に馴染むような味わいが特長です。

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お店を持ったけど、達成感はまるでない

こうやって普段使っている材料について振り返ると、人と人との繋がりを感じますね。有難いことに今では取材いただく機会も増えてきましたが、元々はお店を自分ではじめる気なんて全然なかったんです。29歳で子供ができて育休は取らせてもらったけど、それまでみたいに長時間は働けないし、育児しながらじゃパティシエは辞めるしかないかな、無理なのかなって。本当にどうしたらいいか分からなくて、ブログで育児とレシピについて発信してみたりして、数年間は身の振り方が定まらずにさまよっていました。でも育休中、過去にご一緒したことのある方からの紹介でコンサルとしてデザート開発には携わっていたんです。完全にパティシエの仕事から離れていたら諦めていたかもしれないんですけど、繋がりがあったことで続けられました。

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2歳差で二人目が生まれた後も自分に自信がなくて、この時もお店をやろうなんてちっとも考えてなかったですね。でもあるパティシエの方に「これからどうしたらいいんですかね? 私」って相談したら「自分でお店したらいいじゃん」って言われて。しかも「うちの厨房使っていいよ」とまで言ってくださって、そういうのもありかもしれないって思えてきたんです。結局その方にはお借りしなかったのですが、新たな勤め先のMarutaで間借り営業をするようになったら、想像していたよりも私が作るものを求めてくださる方がいることに気付いて。「子供が大きくなったら、いつかお店をやりたいな」とぼんやり思っていた気持ちが、少しずつ大きくなってきました。そしていざやってみたら、やりたいことは意外とたくさんあって達成感はまるでありません。夏はアイスを出したいし、ヴィエノワズリーも好きだからやりたいし、ドーナツもいいなぁと思ってる状態です(笑)。でも求めてくれる人がいるって幸せなことだし、期待には応えたい。いつか2店舗目も出せたらと思っています。

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ka ha na -菓葉絆-
住所:東京都三鷹市下連雀4丁目15-26
営業時間:11:00~17:00 ※売り切れ次第終了(営業日:木曜、金曜、土曜)
Instagram : @kahana_pastry_tokyo
HP : https://lieroyatsu.shop/