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食材のクリエイターたち:お茶のカジハラ(熊本県葦北郡)

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article/pictures : Yuya Okuda

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生産者、製造者、輸入者、販売者……役割や呼び名は違えど、みなそれぞれが個性的なつくり手だと言える。様々な能力と意志を持つ食材を生み出し、加工し、流通させる“食材のクリエイターたち”を訪ねるシリーズ企画

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熊本県葦北郡にある「お茶のカジハラ」は、主流である生葉を蒸す製法ではなく、昔ながらの直火の釜を使って釜炒り茶を製造しているお茶農園。除草剤を始め一切の農薬を使用せず、堆肥、米ぬか、油粕、魚粉などの有機質肥料を施し、環境にも優しい農法に取り組む。2022年にはイギリス・ロンドンで行われた世界のお茶の品評会THE LEAFIES 2022-INTERNATIONAL TEA AWARDSで、和紅茶が20種類以上のカテゴリーの金賞の中から選ばれる最高の賞”BEST IN SHOW”を獲得し、世界一に輝いた。三代目の園主、梶原敏弘さんに話を訊いた。

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お茶の最盛期と現在

まだ暑さの厳しい8月下旬にお茶のカジハラを訪ねると、梶原敏弘さんの姿は工場にあった。直火の釜で生葉を炒りながらほうじ茶をつくっているところだった。今年は畑仕事が忙しくて工場の仕事がなかなかできなかったと梶原さんは苦笑いを浮かべながら、今やっている工程について丁寧に説明してくれた。

「煎茶は蒸気で蒸してつくるんですが、釜炒り茶は最初から直火でつくります。お茶づくりには顕熱と潜熱というのがあって、顕熱は直火、潜熱は蒸気の熱のことです。緑茶というのは生葉に熱を加えることで酸化酵素を不活性化させてつくるのですが、どちらの方法で酸化酵素を止めるかだけの違いなんですけど、国内の緑茶の99.9%は蒸気で蒸した煎茶。釜炒り茶の生産量は全体の1%以下なんです。つくり手側から言えば非効率だし、煎茶のほうが見た目もきれいで色合いも良く、売りやすい。どっちが美味しいかと言えば好みの世界だけど。この釜は昭和初期のものですが、うちにはこれしかないので」

梶原さんが農業大学を卒業して実家に戻ってきたのは40年前。当時日本の緑茶は全盛期を迎えており、工場を持つカジハラには周辺住民からの自家用茶葉の委託加工の注文が絶えなかった。1日1トンもの茶葉が次々に工場に持ち込まれ、1週間機械を止めることなく三交代で回すほどだったという。

「持ってくる人も今はもう殆どいませんが、お茶もつくれば売れる時代だった。だからガンガン釜の温度を上げてとにかく乾燥させるというつくり方をしていたのが親父の時代でした。今は日本中で緑茶が売れなくなってきて、うちも例外ではない」

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地元消費が中心の小規模な茶農家として梶原さんの祖父が始めたお茶のカジハラだったが、梶原さんの代になると外に販路を求めなければならなかった。そして梶原さんがいち早く取り組んだのが、ホームページをつくってECで売ることだった。

「もともと地元の人に手売りで売っていたので自分で売るということに抵抗はなかった。大勢の農家が今苦しんでいるのはそれができないから。本当はつくることに専念したいけど、それだけでは商売にならんのですよ。美味しいものをつくるのは大前提として、それを評価するのはお客さんなのだから、まずは売るためにどう伝えていくかを考えなければなりません。両輪が必要なんです。肩輪じゃ走れない」

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斜陽産業となりつつあった業界でどう戦っていくか。梶原さんが出したひとつの答えは、よそがつくらない特徴のあるお茶をつくっていくことだった。幸いにもお茶のカジハラは先代から釜炒り製法という日本でも極めて珍しい製法のお茶をつくっていた。新たに紅茶づくりにもチャレンジしながら、ホームページも立ち上げてカジハラのお茶を発信するようになる。それから1年が経った2011年頃、ホームページを見たという女性から一本の電話がかかってきた。カジハラの茶園と工場に見学に来たいという一般女性からの申し出に梶原さんは驚いたという。

「その人はお茶好きの主婦だったんですけど、ご主人の仕事の都合でしばらく中国に住んでいたこともあって、中国や台湾のお茶に精通していた。日本に帰国してから、日本のお茶はどうしてこんなにまずいのだろうというところから、彼女のお茶の探求が始まったようで、『釜炒り茶』で検索していたらうちがヒットした。中国茶は基本的に釜炒りなんです。それで『紅茶をつくるなら台湾や中国に勉強に行ったほうがいいんじゃないか』という彼女からの提案で、急いでパスポートを取った。彼女と一緒に4回は行ったかな。とにかくお茶の産地を回って、農家さんのところに泊まらせてもらいながら、そんなふうに彼女は中国や台湾のお茶の産地を泊まり歩いていたんですよ。今があるのは彼女のおかげですね」

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お茶の本場で学んだ原理原則

本場のお茶づくりを学んできた梶原さんは、母校の農業大学にも足を運んで先生にも教えを乞い、熱心にお茶の勉強を続けた。そして3、4年かけて試行錯誤を繰り返し、今のカジハラのお茶をつくり上げていった。

「中国の教え方というのはすべて感覚で、きちっと数字で測ろうとする日本とは対照的でした。こういう状態になればいい、この香りが出たらいいといった具合です。教える側にとって数字は指標になるかもしれないけど、すべてがその通りにはいかない。毎日の気温や湿度、葉っぱの状態で変わってくるのは当たり前のこと。中国・台湾の茶づくりには大いに影響を受けました」

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梶原さんは、すべてのお茶づくりの原理原則と言えるものを中国・台湾で学んだという。それはいかにして茶葉から“芯水”を抜いてやるかということだった。

「芯水が抜けていく時に、一緒に茶の持っている雑味とかエグみが抜けていく。それまでただ乾燥させればいいと思ってやってきたけど、実は全然違うことでした。乾燥させると茶の表面に膜ができてしまい、表面だけ乾いて芯水が抜けなくなる。でもそれは昔から日本でも言われていたことなんです。『茶をつくるときは上乾きはさせるな』と。でもそれがなぜいけないか教えてくれる人は私の周りにはいませんでした。どうすれば上乾きをさせずに芯水を抜くかを考えるようになったんです。例えば乾燥には関係の無いように思える揉む工程で芯水が出るように揉み方を変えてみる。そうしてうまく芯水が抜けると、驚くことに味が劣化しないんです。以前は秋を過ぎると秋落ちと言って、なんだかひねたような味がしてたけど、今はそれがなくなりました。新鮮な香りは徐々に消えてはいくけど、嫌な香りはしない。老香(ひねか)じゃなく熟成に変わった」

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工場の奥へと案内され、「これが一番大事な機械です、ここで失敗するとすべて失敗する」と梶原さんが指差したのは、木でできた大きな箱だった。台湾で見た萎凋槽を基に紅茶用に自分でつくったという。

「ここに摘んできた生葉を入れて、蒸れないように下から送風できるようにしているんです。緑茶は生葉を摘んできたその日のうちに熱を加えて酸化酵素を殺して発酵を止めるのに対し、紅茶の場合は一晩寝かせて水分量55%位まで萎凋させ、茶葉を揉んで発酵させます。揉むことで葉っぱが傷つき、そこに酸素が結びついて発酵が始まる。揉んで2時間程置いたら、今度は熱を加えて発酵を止めてやらんといかんわけです。その見極めが一番難しいところで、どういうお茶をつくりたいかで発酵具合をコントロールする。1時間半で発酵を止める茶葉もあるし、3時間かけるものもある」

毎日状況は異なるし、時間帯でも変わる。だから結局は人の手なのだと梶原さんは言う。カジハラの工場には自動制御機能の付いた機械もあるにはあるが、状況に応じて最適な設定をしてスイッチを入れるのは梶原さんなのだ。

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生葉が蒸れないよう弱い風を送る箱と、生葉を一晩で萎れさせるために強い風を送る箱で使い分けている

お茶づくりに込めた約束

最後に自宅と工場から歩いてすぐのところにある茶畑を案内してもらう。

「うちの茶業のルーツは山茶という在来のもので、自然に生えていたところを茶畑にしているんです。もちろん普通の畑もありますが土自体は粘土質で硬いので根が張らないので、長生きはしない。長生きする苗は50年程生きますが、うちのはせいぜい30年くらい。毎年土壌分析もしています。成分チャートを見ながらpH を5.5から6を目標に調整していきます」

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お茶は弱酸性の土壌を好むとされる。基本的に肥料をやることで土壌はpHが下がって酸性に寄っていくため、それを矯正するために今度は石灰などを撒いてアルカリ性に寄せていく。恵まれた土壌ではないにもかかわらず、なぜ「夏摘みべにふうき和紅茶」のような世界最高峰の賞を受賞するほどのお茶がつくれるのだろうか。

「要因はひとつではありませんが、肥料が少ないことが紅茶には合っていたんでしょうね。極端に肥料の多いお茶って紅茶には向かない。高級煎茶を摘む地帯の茶畑はどかどか肥料を入れます。うちの2倍~5倍も入れるので、出汁みたいな味のする高級な緑茶になるんですよ。でも紅茶にするとくどくて自分にはおいしい紅茶とは思えない。うちが肥料をあまり使っていないのは、単純にお金がなかったからでもあるし、肥料をたくさんやると虫が出やすく病気にもなりやすいんですよ。農薬不使用が前提なのでそれでだんだん肥料を減らしていって、最低限の収量が採れてある程度品質も保てるラインはこの辺かなってやっています。農薬を使ったら早いのはわかっているけど、それは出来ない。約束を破ったらあかんかなと、お客さんとの。自己満かもしれませんが」

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農作業から発酵、熱加工といった多岐にわたる工程がお茶づくりにはあるということを思い知らされた。そしてそれらを感覚を研ぎ澄ませることで、自分のお茶園の環境に合うやり方を見出していかなければならない。最後に梶原さんに、お茶づくりで一番こだわっていることは何かという少し野暮な質問をすると、「茶葉の持っている素質を引き出してやること」と迷わずに返ってきた。

「お茶といえども農産物なので、毎年多少違う。紅茶なんか特にそうです。霜にやられると味は薄くなる。だから毎年お茶自体の味が変わるのはどうにもならないけれど、そのブレをなくしていくために技術を磨いてカバーしていかなければいけないんです」

この味こそが「お茶のカジハラ」のお茶なのだという正解が梶原さんの中にはある。そこに近づけようとする気概と姿勢はまさに職人であり、世界の頂点にのぼりつめた今もなお挑戦者なのだと思わせるものだった。

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お茶のカジハラ
住所:〒869-6303 熊本県葦北郡芦北町大字告844
TEL:0966-84-0608
mail:info@kajihara-chachacha.com
http://www.kajihara-chachacha.com/