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ミヨシ油脂 | マーガリンでつくる、次の100年

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article:Juri Mita

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「動物性食品が手に入らなくなる時代は、実はそんなに遠くない。そうなった時に私たちは何をしていくべきなのだろうかと考えるんです」

国連の世界人口推計によると、2050年までに世界の人口は97億人を突破する見込みだ。(出典:https://www.unic.or.jp/news_press/info/33789/

私たち人間の活動に伴う環境負荷は年々増加の一途をたどり、その結果、食糧、水、エネルギー、そして現代社会を支える化石燃料や金属、鉱物といった枯渇性資源は刻一刻と減少し続けている。

「資源を使うとはどういうことかを、この地球に生きる誰もが考えなければならない時が来ていると思います」

2021年、創立100年という大きな節目を迎えた油脂メーカー・ミヨシ油脂。創業以来、彼らは常に「未来」を思い描き、時代とともに自分たちが果たすべき使命を追求してきた。

事業の裏側にあるその思いを、代表取締役社長兼CEOの三木逸郎さんに聞いた。

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未来を想像する力

ミヨシ油脂の創業は1921年。当時の社名は「ミヨシ石鹸工業合資会社」で、繊維用石鹸の製造を生業とする会社だった。
彼らが食品分野へ進出したのは20年後の1941年。マーガリン製造メーカー・瀬本製油の買収がきっかけとなった。創業者には先見の明があったのだろう。戦後日本の洋風化、「パン食」の広がりを見据えた事業の展開は、その後のミヨシ油脂の方向性を決定付ける。

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石鹸とマーガリンはどちらも水と油が主原料。石鹸づくりのノウハウを活かしたマーガリン製造事業は順調な成長を見せ、ミヨシ油脂の主力事業として拡大していった。

「モノとしてのマーガリン」は終わった

「ですが正直、マーガリンはもう衰退していく市場だと考えています」。
一昨年の消費税増税から続く消費の冷え込み、新型コロナウイルス蔓延による外食機会の損失、人口減少による食品業界全体の不景気に加え、マーガリン業界独自の課題として「トランス脂肪酸」に関するマイナスイメージも未だに根強い。

ただし、と三木社長は続ける。

「マーガリンを単なる“モノ”としてだけ捉えるのであれば、もう私たちに未来はない。でも全く違う思想を取り入れることで、別の“体験”に生まれ変わらせることはできるかもしれない」

モノを売る時代から、コト(体験)を提供する時代へ。
数年前から、ミヨシ油脂では「体験」をキーワードに新たな活動を始めた。2019年には本社近くにベーカリー、カフェ・マルガパーネをオープン。様々な製品を通じて、マーガリンの知られざる魅力を体験してもらうことをコンセプトにしたカフェだ。(2023年7月閉店)
さらに翌2020年には新ブランド・botanova(ボタノバ)を市場に投入。「動物油脂の美味しさをプラントベース(※)でつくりだす」をキーワードに、これからの時代を生きる人たちに必要な「体験」に焦点を当て、製品として発信している。

※プラントベース:英語で“植物”を意味する「plant」と“由来”を意味する「base」から成る言葉で、1980年代にアメリカの生化学者であるT.コリン.キャンベル博士によって「健康のための低脂肪かつ繊維質を多く含む植物由来の食事」と提唱された。また、2010年代に入ってからの急速な市場拡大を受け、アメリカのプラントベースフードアソシエーションではプラントベース食を「野菜、果物、全粒穀物、ナッツ、種子、豆類などの植物由来の食物からつくられる製品」とより具体的に定義した。(参考:Plant Based Foods Association Certified Plant Based Claim Certification Program https://d2evkimvhatqav.cloudfront.net/documents/pbfa_nsf_certified_pb_definition_only.pdf

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カフェ・マルガパーネ
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マーガリンにはまだ見ぬポテンシャルがある。その可能性を信じるからこそ、ミヨシ油脂は走り続ける。

マーガリンから考える、持続可能な世界

ミヨシ油脂では、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2016年から2030年までの国際目標「SDGs」に関連づけた7つの目標を軸に、環境問題、社会問題などの解決に寄与する様々な取り組みを実践している。

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なかでも特に注力しているのが、トランス脂肪酸の低減化。「すべての人に健康と福祉を」というSDGsのゴールに対し、彼らは「2030年までに全製品のトランス脂肪酸含有量を1%未満にする」というマーガリン事業に携わる企業ならではの目標を掲げた。

脂質を構成する脂肪酸の一種であるトランス脂肪酸は、主にマーガリンやショートニングの製造時に液状の植物油を固体や半固体にする工程で生成される。過剰摂取すると心筋梗塞などの冠動脈疾患を増加させる可能性が高いとされ、WHOでは健康への観点からトランス脂肪酸の摂取量を「総エネルギー摂取量の1%未満」に留めることを推奨してきた。

「総エネルギー摂取量の1%未満」を日本人の生活に置き換えた場合、1日あたりの摂取量目安は2g以下に相当する。
2gがどのくらいかと言えば、6枚切りの食パン1枚あたりに含まれるトランス脂肪酸が0.0187g、牛乳200mlあたり0.178g、バターひとかけら(10g)あたり0.19gなど、日々の生活で口にする量からイメージしてみると捉えやすいだろう。(データ元:ミヨシ油脂「マーガリンあんしんBOOK」)

そもそも、日本人のトランス脂肪酸平均摂取量は世界的に見てもごく僅かだ。数値的にもWHOが定義する摂取量の目安を大きく下回る0.3%程度で、健康を害するレベルには達していない。

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では何故こんなにも良くないイメージがつきまとうのか。それは、アメリカやEUなどの含有量規制や表示義務に関するニュースの影響が大きいとされる。海外の動きにあわせて日本でも表示に関する議論が起こり始め、食品安全委員会が国民の健康影響を調査するなど、トランス脂肪酸に関する話題が事あるごとに取り上げられるようになった。その結果「トランス脂肪酸=マーガリンは悪いもの」というイメージが深く定着してしまったのだ。

こびりついたマイナスイメージを払拭すべく、油脂メーカー各社ではその後長きにわたりトランス脂肪酸の低減化に努めてきた。
ミヨシ油脂でも10年以上前から積極的な取り組みが続けられており、2020年時点で全製品平均のトランス脂肪酸含有量は約1.9%(代表製品「ミヨシマーガリンLT」のトランス脂肪酸含有量は0.91%)。取り組みが始まる以前と比較するとその量は1/10程度にまで下がっている。

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「マーガリンのトランス脂肪酸含有量は、今やバターの約半分にまで低減されました。ですが私たちがSDGsの目標とする数値まではまだもう少し。より多くの人に選んでもらい、人々の健康的な生活の確保に貢献できる製品を実現できるようチャレンジを続けます」。体験を軸にしたマーガリンの新たな価値創造と、トランス脂肪酸低減化の取り組み。ふたつの観点から、ミヨシ油脂はマーガリンの未来に向かっていく。

次の100年へ

「環境崩壊は、今この瞬間も待ったなしで進行しています。そういったなかで、SDGsをある種の商売道具やファッション感覚で語る時代はもう終わりと言って良いでしょう。2035年、EUでは包括的な気候変動対策としてガソリン車の新車販売を禁止するそうです。かつての当たり前が当たり前じゃなくなる世界は、もうすぐそこまで来ている。

すべての資源には限りがあるということも、今改めて考えなければならないポイントです。毎日食べていた牛乳やバターが、ある日忽然と姿を消す。もう一生食べられなくなる。そんな時代がくるかもしれない。もしそうなった時に、ミヨシ油脂には何ができるだろうか。これからの時代における社会的責任を、どう果たしていくべきなんだろうか。

…ということを、私たちはもちろん世界中すべての企業がそれぞれやっていくべきだと思います」

持続的な社会の構築なくして事業の永続的な発展はありえない、三木社長はそう言い切った。本当の社会貢献とは何か、持続的な社会の実現とは何か。社員一人ひとりが自分ごととして向き合い、取り組んでいくことで、未来はつくられていく。

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創業から100年を迎えたミヨシ油脂が「次の100年をつくる」事業の軸として、大切にしている言葉があるという。それは「代替」。

「たとえば牛肉を1kg生産するのに、水2万l、穀物11kg、それから広大な土地が生育のために使われます。育てた牛のげっぷは温室効果ガスを多く含んでいるので、地球温暖化も加速する。一方植物なら、そのものが原料にもなりますし、環境への負担は、少なくとも動物よりは抑えることができる。そう考えた時に、じゃあこれから私たち原料メーカーがやるべきことってなんだろう?と。

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ミヨシ油脂「botanova」ブランドコンセプトブックより引用

私たちは、もしかするとそれは「新しい原料をつくること」なのかもしれないと考えています。かつてマーガリンが「バターの代わり」として世に広がったように、代替品にはまだまだ色々な可能性があるんじゃないか。であるならば、人と地球を守れる新しい選択肢を、これからは私たち原料メーカーの手で生み出していく必要があるんじゃないか、と。
それこそが、これからの未来に向けた私たちの使命なのかもしれません」

■ミヨシ油脂
〒124-8510 東京都葛飾区堀切4-66-1
HP : https://www.miyoshi-yushi.co.jp/