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箱屋の自負

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箱屋の自負 箱屋の自負

「包むことについて考えるのは、人間の生活のすべてについて考えることに他ならない」。戦前から活躍したアートディレクターであり、パッケージ蒐集家兼研究家でもあった岡秀行は写真集「包(1972年・毎日新聞社)」のなかでこのように語っている。

単にものを保護・保管・輸送するだけではない。ものと人、人と人の間を繋ぐ重要なコミュニケーションの手段として、パッケージは常にものに寄り添い、その役目を果たしてきた。
売り手は、買い手への感謝を込めてものを包む。贈る者は、受け取る相手の顔を想像しながら箱の中に思いを込める。
パッケージとは、「思いやり」の具象化なのかもしれない。

パッケージ中澤。白いケーキ箱に魂を注ぐ、職人たちの姿に迫った。

街のお菓子屋さんを支えるパッケージ会社

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パッケージ中澤は、島根県松江市を拠点とする紙器製造メーカーだ。和洋菓子のパッケージに特化した製品展開で、1958年の創業以来60年以上にわたり食のプロたちを支えてきた。

紙器:紙の加工製品全般を指す言葉。1911年の大英博覧会を訪れた日本の実業家・田島志一氏がイギリスの紙製品(paperware)に魅了され「紙器」と名付けたことがきっかけで定義された。田島氏は帰国後「日本紙器製造所」を設立、その後の日本の紙業発展に大きく貢献した。

2020年以降は新型コロナウイルス感染症の影響で営業活動がほぼ潰えているにも関わらず、売り上げは好調。特にレジ袋有料化に伴い人々が店でショッパーを受け取らなくなったことが、洋菓子のパッケージにおいては有利に働いているという。

これまでパティスリーでは、ケーキを持ち手のない箱に入れ、さらにその箱をショッパーに入れて購入者へ渡す形式を採るところが多かった。しかしレジ袋有料化以降は、ショッパーがなくてもそのまま持ち帰れるような手提げのケーキ箱を導入する店が増加。
その結果、パッケージ中澤では手提げのケーキ箱「OPL(オープンロック)」の受注が急増し、一時期生産が追いつかないほどの売れ行きになったという。

「いつものケーキ箱」とは何か

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パッケージ中澤の製品のなかでも通年を通して安定的な人気を誇るのが、デコレーションケーキ箱の「TSD(手提げスペースデコ)」。一見何の変哲もないシンプルな箱だが、そこにはプロフェッショナルたちのミクロなこだわりが凝縮されているという。

「TSD」が生まれた2005年以前、パッケージ中澤の主力といえば「TD(手提げデコ)」だった。汎用性が高く、サイズ展開も豊富な「TD」は、長きにわたって多くのパティシエに親しまれてきた。

以下の写真は左がTD、右がTSD。その違いがわかるだろうか?

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「TD」と「TSD」の違い。それは保冷剤スペースの有無にある。

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保冷剤スペース付きの「TSD」は、パティシエの声がきっかけとなり生まれた製品だ。

問題の本質を理解する

あるパティスリーからパッケージ中澤に寄せられたクレーム。その内容は「底面の糊貼り部分がケーキトレーを出し入れする際に引っかかって使いづらい」というものだった。

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その後も同様の声がいくつか届き、商品開発室では設計の見直しに着手。様々な視点から改良の可能性を追い求めるなか、ある時ひとつのアイデアにたどり着いた。

当時の様子について、商品開発室室長の吉田進さんは語る。

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「糊貼りの存在をあえて活かすのはどうか、とある日突然ひらめいたんです。糊貼り部分を隠すのではなく、むしろ逆手にとって、保冷剤用の専用スペースにしてしまえばいいんじゃないかって。
当時、他社では天面に保冷剤スペースを設けているところが多く、私たちのようにサイドを活用した製品をつくっているメーカーはありませんでした。他社との差別化を図る上でも、非常に良いアイデアだったと思いますね。

天面よりもサイドの方がスペースを広く取れるので、暑い時期には保冷剤を複数入れたり、キャンドルやメッセージカードを同封することもできます」

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さらに開発室のメンバーは理想を追い求めて松江市内のパティスリーへ。
厨房でシェフに箱を試してもらい、その様子を間近で見ながらさらなる改良のヒントを探った。
すると、ケーキを箱に入れるシェフの手つきから吉田さんはあることに気がつく。

「ケーキを箱に入れる時、シェフが手の甲でサイドのフラップを避けるようにしてちょっとだけ外側に押したんです。本人も無意識だったようですが、その手の動きを見ていたら「フラップの下にストッパーをつけて、フラップが閉じるのを防げたらもっと便利かもしれない」と気がつきました。

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結局のところ、実際に使う人がどうやって使うのかをきちんと知ることから始まるんです。組み立てはスムーズにできているか?手間取る瞬間はないか?って、とにかくよく見ること。
その上で、そこにある「問題の本質」を理解することが何よりも重要だと思います。その点で言うとクレームは次の箱への第一歩ですね」

0.5mm、プライドの戦い

パッケージ中澤の箱には、まだ他にも秘密がある。
続いて話を伺った松浦静夫さんは、吉田さんと共に40年以上パッケージ製造に打ち込んできたトムソン課の木型職人。
「トムソン(加工)」とは、刃を組み込んだ木型を使い、紙やフィルムを型抜きする工程のことで、地域によっては「打抜き加工」や「ビク抜き加工」とも呼ばれる。

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「箱の側面、綺麗な長方形に見えるでしょう。でも実はこれ、左が114.75mm、右が115.25mmとほんの少しだけ傾斜をつけてあるんです。

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何故かというと、糊貼りしてある辺は紙が重なる分厚みが増すから。ちょっとしたことですが、同じ長さにするとどうしても面の形が歪んで隙間が空いてしまうんですね。なので糊貼りしてない方の辺を0.5mmだけ長くとって、形が整うように調整してあります」

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また同じ型の箱であっても、使用する紙の厚みによって、生じる歪みの大きさは変わってくる。そのため、たとえ図面どおりにつくった箱でも現場では必ず完成品をチェックし、使われる紙ごとに必要な左右差を再度調整するという。

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1mmにも満たない細かな数値の調整に心血を注ぐ松浦さん。松浦さんにとって「いいパッケージ」とはどんなものだろうか。

「完璧な箱ってね、音がするんです。蓋を閉めた時にカチッ、って気持ちの良い音がする。“良い音がする箱”っていうのが私のひとつの指標ですね。
音がするっていうことはつまり、寸法がぴったりで緩みがない状態。緩みがない箱は強度が高い。そう簡単には潰れません」

届けたい「もの」と「思い」を、ほんの僅かでも損なうことなく届けるために。職人たちは、パッケージの可能性を追求し続ける。

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「私たちの仕事は、使う人の当たり前をつくることです。誰でも当たり前に、普通に、気持ちよく使えるものをつくるのが私たちの使命。
だけどそれだけじゃなくて、その”当たり前”をちょっとずつ引き上げていけたらと思うんです。箱の中の小さな工夫に気づく人は少ないかもしれないけど、それでいい。私たちはいいものをつくるだけです。
これは箱屋のプロとしての自負というか…プライドの戦いみたいなものじゃないでしょうか」