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小商いのカタチ: cimai(埼玉県幸手市)

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article/ pictures : Yuya Okuda

お店づくりは小商いの最初の一歩。 一軒のお店には、そこに携わった人の数だけ物語が秘められている。 手元のカードと思い描く理想を天秤にかけ、何を選びとっていったのか。 お店が出来上がっていくその背景をひもとくことで、小商いの理想のカタチを探る──

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埼玉県幸手市にある「cimai (シマイ) 」は、その店名どおり姉妹で営む人気ベーカリー。まるで角食パンのようなキューブ型の建物の1階が店舗、2階が「shure(シューレ)」というイベントスペースとなっている。店内にはアンティークの家具が設えられ、姉が作る天然酵母のパンと妹が作るイーストを使ったパンが分け隔てなく並ぶ。パン作りの技術を売りにするパン屋としてではなく、パンを介して「衣・食・住」を提案するという独特のスタイルで全国に多くのファンを持つcimai。オープンから今年で15年を迎えるcimaiの変遷と、日々働くうえで大切にしていることについて、姉の大久保真紀子さんと妹の三浦有紀子さんの二人に話を訊いた。

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姉妹の夢を叶える箱

「お店をやることが私たちの人生において決まっていた。そう思えるくらい、開業を決めてからはすべてが用意されていったんです」

そう話すのは妹の有紀子さん。二人が開業を決めたのは、栃木県那須塩原市にある「1988 CAFÉ SHOZO」に遊びに行った時のこと。カフェブームの先駆けとして知られ、他県からも多くのお客さんが訪れるこのカフェに魅せられ、いつか自分たちもこんなお店を作りたいという思いが芽生えるようになった。その後、先に真紀子さんがベーカリーの道に進み、有紀子さんも絵の学校に通いながらベーカリーカフェでアルバイトを始めた。天然酵母パンに興味を持つようになった真紀子さんは、その草分けとして知られる代々木八幡の「ルヴァン」で働くようになる。それぞれが異なるパン屋で研鑽を積み、2005年からは「cimai」というユニットを組んでイベントに出店するようになる。開業を決めたのはこの建物のおかげだと有紀子さんは言う。

「この建物の前を通る度に、ここでパン屋が開けたらいいなと思っていたんです。大家さんが自分の倉庫として利用していたのでずっと空く気配はなかったのですが、ある日テナント募集の張り紙が掲示されたんです。しかも幸運なことに想定内の家賃で。だけどそのタイミングで開店のための夢貯金なんてありませんでした」

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少量のイーストを使って長時間発酵させ、生地を成形せずに焼き上げたpave

パン屋を開業するには1000万円は必要と言われている。道具を中古で揃えたとしても、テナントの改装料などもかかってくる。公庫から融資を受けられたものの、460万円が上限だった。

「ですが、そのタイミングでルヴァンの調布店が店をたたむことになって、ミキサーやオーブンなどのパン屋に必要な機材を譲ってもらえることになったんです。ミキサーも100万円は超えるのですが、運賃だけでいいよって言ってくれて。オーブンもオーバーホールしてもらい、運賃含めてかかった費用は180万円程。ホイロも、ルヴァンのオーブンを運んでくれた業者さんにどれを買うべきか相談したら、『お金がないんだからこれだよ』って勝手に決められて、当時36万円だったものを中古で購入しました。(笑)。結局460万円に収まったんです」

オープンに際し、雑誌『自給自足』の編集長と知り合いだったことから「cimaiができるまで」という雑誌連載も始まった。「お店をやると決めて、そこに向かってちゃんと行動さえしていれば、まるで必然だったかのようにあらゆる障害が取り払われていく感覚でした」と有紀子さんが話すと、「でも、改装も終えてそろそろオープンしようと思ったら、パンの陳列棚や家具がなかったんだよね」と真紀子さんは茶化すように笑う。

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パン屋の枠にとらわれない

cimaiのオープンから14年が経った昨年4月、二人はディレクションという形で新たなパン屋を埼玉の大宮にオープンさせた。樹木のそばにある店として「kico(樹粉)」と名付けられたパン屋は、cimaiで働いてきたスタッフが切り盛りする。

「ここが格安でオープンできたからもっと安くできるかなって思ったんですが、そんなこともなくて。やっぱり開業には1000万円以上はかかるんですね。もう借りないつもりでしたが、また借りちゃいました。でも、その時の自分たちのレベルに合った課題が与えられて、それをどう乗り越えていくのか問われている気がします。それにルヴァンの甲田さんも『お金で動くといい仕事ができないよ』ってよく言っていました。こうしたら利益が出るだろうとか、そういう考えでいるとうまくいかないって」

そう話す真紀子さんに有紀子さんも言葉を重ねる。

「kicoを始める時にはまだ私たちにお金のブロックがあったよね。2階に『shure』をオープンさせた時も、お金のことで割と揉めたんです。気に入っているお店の内装を手がけている工務店さんにお願いしたけど、『お金がないくせに』って何度も言われて(笑)」

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shureをオープンさせたのは東日本大震災が起こる少し前の2011年。パンの売り場を拡大するのではなく、自由に使える空間を二人が手にいれたかったのは、cimaiが目指すものがただのパン屋ではないからだと言える。作り手の技術を売りにしたパンを提供するお店ではなく、パンを介して「衣・食・住」のライフスタイル全体を提案できるお店にしたいという願いが二人にはあった。

「shureのオープン当初はミュージシャンを呼んでライブをしたり映画の上映会をしたり、梅干し作りや味噌作りなどけっこうまめに活用していたんです。でもやっぱり必要なものだけが残っていきますね。今は主に、月に2、3回のヨガ教室とフットケアのワークショップを定期的に開催しています。血の巡りという観点から病気になりにくい身体作りを主体に活動している先生を呼んでケアをしてもらいながら、みんなで学んでいます。あとはお店にも飾っているのですが、年末にしめ縄作りのワークショップを開催しています。日本の伝統的な習慣をきちんと暮らしに取り入れたいなと思って、同世代の農家さんに毎年稲わらを育ててもらってしめ縄作りを教わっているのですが、とても人気なんです」

店内の壁にはその月に開催されるワークショップの案内が貼られている。健康のために自身の暮らしを見つめ直す機会として、パン以外のものにも出会えるというのはお客さんにとっても嬉しいに違いない。

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厨房が神様の領域となるように、入り口にしめ縄が飾られている

受け継がれてきたもの

cimaiのパンに欠かせない材料について、有紀子さんに尋ねてみた。

「長年自然栽培をされている上野長一さんという栃木県の農家さんから、ライ麦と全粒粉、そしてパンに練り込む雑穀として『いろいろ米』を仕入れています。元々ルヴァンとお付き合いのあった農家さんで、cimaiを始める時から上野さんの育てたものでパンを作りたいと思っていました。あとはスタッフへの賄い用のご飯に上野さんの育てた玄米を使っています。おかずは持ち寄りで、お味噌汁と玄米だけ賄いとして提供しています。やっぱり同じものを作るチームなので、みんなで賄いを食べる時間って大事ですね。今はスタッフの人数も増えて全員で一緒に賄いを食べる時間をとることは難しいのですが、みんながいい気持ちで同じ時間を共有できたら、パンにもそれが伝わって美味しくなると思うんです。作り手の状態はパンにも移ります。だってパンも生き物ですから」

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賄いを大切にする文化は、もともとルヴァンのオーナーである甲田幹夫さんの「同じ釜の飯をみんなで食べよう」という考えがベースにあるという。今度は真紀子さんに、ルヴァンから受け継いだ思い入れのある道具を見せてもらった。

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「このスケッパーは、日本にはない珍しいタイプのものなんです。二つあるうちの片方はルヴァンで働いていた頃に持ち手が壊れてしまったのですが、甲田さんがその辺に落ちていた桜の木の枝を細工して持ち手にしてくれたんです。この発酵かごもルヴァンの調布店を始める時にどこか海外で買ってきたものらしく、日本で売られてるものと形状が異なるんです。20年以上は優に経つので麻生地も見ての通りぼろぼろですが、このまま使い続けています。当時はこのかごを作っている国にいつか行ってみたいなって思っていましたね。道具ってふいにそういう気持ちを思い出させてくれますね」

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姉妹でやってきたからこそ

「最近、自分の思考がすごく偏っていたんだと気づかされることがあって、学んだことがあるんです」と真紀子さんがおもむろに話す。

「“考える”ことって今までの自分の経験などを踏まえて答えを出そうとするけれど、“感じる”はまた違うことなんだって。本当にこれは必要なものか、作りたいものかを自分に問いかけてみて、素直にそう感じることができたら考えずにすぐ行動に移そうと」

考えて行動するのではなく、感じること。それが二人にとっての今年のテーマなのだと有紀子さんも言い添える。だからこそ「こうでなければいけない!」という考えを脱ぎ捨てたいと真紀子さん。二人はインタビューの最中も、互いが感じていることを口に出し、まるでキャッチボールをするように対話する。

「だけど来年にはまた思考が変わっているかもしれないね」

「それこそ添加物が入っているものを使ったりして」

「それはないかな。でも添加物が入っていてもすごく美味しかったら、少し許容するかもしれない」

「私はそのものが持つエネルギー値が高ければ別に問題ないかな。むしろ作り手の『こうじゃなきゃいけない!』っていうガチガチの思いがこもった無添加のものと、そこそこの素材だけど良い気持ちで作られたことが伝わるものだったら、後者を選ぶかな。きっと自然に選んじゃう気がする」

「自然にできるってことが大切だよね。たとえば昔の人にとっては無農薬って当たり前だったでしょ。そもそも農薬を使うという概念がなかったから。それと同じで、ただただ普通の生活を普通に送れることが一番だよね」

小気味好く二人の掛け合いは続く。姉妹同士近い感覚を持ち合わせながらも、個々の人間として互いに意見を交換し、影響を与え合っていくことで、cimaiというお店は今まさに作られていっている途中なのだと思えた。それに、パンが作り手の状態に影響を受ける生き物であるなら、パン屋という箱もまた、そこで働く人とともに成長していく生き物と言えるのかもしれない。

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cimai (シマイ)
埼玉県幸手市大字幸手 2058-1-2
tel : 0480-44-2576
12:00~18:00(不定休)
HP : http://www.cimai.info/
Instagram : @cimaipain


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