スモールビジネスのための問屋サービス オーダリーへようこそ

©marubishi linked Co.,Ltd

未来のチョコレートマスターたちへ:チョコレート イノベーション コンテスト

クリップボードにコピーしました

article: Tomomi Sumida
pictures : Yuya Okuda

Co00101 Co00101

世界で販売されているチョコレートの25%以上を占める、チョコレート製造メーカー「バリーカレボー」。40カ国以上で事業を展開し、世界中で65カ所以上の製造施設と、26カ所のチョコレート・アカデミー™センターを運営。フランスのカカオバリー、ベルギーのカレボー、スイスのカルマ、日本でもお馴染みココアのバンホーテンなど幅広いブランドを抱えている。自動車メーカーにたとえるなら、チョコレート界のトヨタかフォルクスワーゲンとでも言えるだろう。

そんなバリーカレボージャパンが主催するコンテストがある。今年で6回目を数える「チョコレート イノベーション コンテスト」だ。革新と銘打ったこのコンテストの趣旨と、バリーカレボーが考えるチョコレート業界のこれからについて、チョコレートアカデミー™センター東京の責任者兼バリーカレボー製品のテクニカルアドバイザーを務める尾形剛平さんに話を訊いた。

Co00102 Co00102

<プロフィール>

尾形剛平
1997年に東京製菓学校を卒業後、サロン・ド・テ・スリジェ、ドゥー・シュークルを経て渡仏、現在カカオバリーのブランド大使でもある、MOFのアルノー・ラエル氏のもとパリで1年間働き、その後フランス・キブロンのアンリ・ルルーで研修。アンリ・ルルージャポンのシェフ・パティシエとして帰国し、同時に(株)ヨックモックの商品企画開発担当として7年間勤務。国内外でのコンクール受賞暦も多数。2015年4月より、バリーカレボージャパン株式会社に入社、チョコレート・アカデミー™センター東京の責任者、そしてバリーカレボー製品のテクニカルアドバイザーとして勤務を開始

業界の未来を見据えたコンテスト

一般的にメーカーが主催するコンテストは、パティシエの技術向上やそこでの経験を実務に活かすことが開催の目的に掲げられ、主催するメーカーにとっては自社製品を使ったレシピとそれを扱うお店が増えることで売上と宣伝にも繋がる──そんなイメージを持たれる方が多いだろう。だが、バリーカレボーが主催する「チョコレート イノベーション コンテスト」の本質的なねらいは、もっと違うところにある。

チョコレートのビジネスに携わるすべての人が今まさに直面している深刻な問題がある。原材料であるカカオの高騰だ。「2025年にはカカオが供給難になるだろうということは、2015年頃から既にわかっていたことなんです」と尾形さんは話す。バリーカレボーは業界ではいち早くカカオ農家の支援にも力を入れてきた。そしてカカオの供給元だけではなく、消費者との接点でもあるシェフたちの育成も同時に進めることで、チョコレートやカカオに対する理解を広めようとしている。その一環として始まったのが、このチョコレート イノベーション コンテストだと言える。

Co00108 Co00108

そのためコンテストテーマも毎回趣向を凝らしたものになっている。たとえば、サステナブルに調達されたカカオを使用したチョコレートを当たり前にするためのレシピや、これまでほとんどが廃棄されていたカカオのパルプ(果肉)などをまるごとアップサイクルしたレシピ、そして昨年は食の多様なニーズに応えるべく、次世代のヴィーガンやプラントベースのスイーツがコンテストのテーマに掲げられた。チョコレート業界の変革のためには、シェフやクリエイターの方たちの変革も必要だと尾形さんは考える。

「食材の使い方や技術を継承することはコンテストの重要な役割ですが、そこで生まれた優勝作品やおいしいレシピが何もせずに売れるとは限りません。お客様が見ているのは肩書きではなく“商品”です。実際に店頭でお客様に選ばれる商品の裏には、必ずと言っていいほど商品開発の元になるコンセプトやストーリーがあるものです。いくらおいしいお菓子を作っていても、それが伝わってこなければお客様に選ばれません。だからこのコンテストではレシピ自体を競う以上に、シェフやクリエイターの皆さんが考える力や伝える力を養う下支えとなることを主旨としています」

Co00103 Co00103

これからの職人に必要な「伝える力」

チョコレート イノベーション コンテストでは一次審査こそ書類審査だが、二次審査からは作品の構成やコンセプトをまとめて自ら語る「3分間のプレゼンテーション動画」の提出を求めている。審査員はこのプレゼンテーション動画を視聴してから、その内容を踏まえ作品を試食する。プレゼンテーションを重視する背景には、尾形さん自身の若手時代の経験があった。

「街のお店でパティシエをしていた頃、私はただ“お菓子を作る係の人”でした。企業に勤めて商品開発を任されるようになった時、製造の技術はあるものの、売るために必要な要素がわかっていなかったからです。その会社でマーケティングやPR、営業推進チームと関わるようになったことで、お客様においしさを伝えるために様々な視点から商品が作られていることに気付かされました」

伝えるといってもその方法は様々で、なかでも視覚表現は大事な要素のひとつ。最終審査まで進んだ場合、すべての参加者の作品はフード業界の第一線で活躍するフォトグラファーの石丸直人さんに撮影してもらえる。この時、石丸さんにどのように撮影してほしいのかを各自「指示書」にまとめて提出することになっている。尾形さんは「どう撮ってほしいのか、シェフである自分が考えるその商品の魅力は何か、それを伝えるのは作り手の役目」だと話す。尾形さんもかつて撮影の度に『あなたが考える、このケーキの正面はどこ?』『何をいちばんアピールしたいの?』と問われてきたことから、他の分野のプロにきちんとリクエストできることも審査のポイントとして重視している。

Co00104 Co00104
昨年優勝した佐藤駿さんのスイカ皮と種をアップサイクルした作品「NXT Cake d'été」

コンテストを通じてこうした伝える力を育むことは、売るためだけが目的ではない。自分の作ったお菓子を販売するためには価格の設定も大事になってくる。そこで向き合わなければならないのが、先にも触れた原材料のカカオの高騰だ。

「かつてバニラ市場で起こったように、いきなり適正価格にしようとして何倍にも商品の値段を上げてしまえば、チョコレートの市場は一気にシュリンクするでしょう。買ってくれるお客様が減ることで、少ない生産量で利益率を上げる売り方に今後シフトしていくことも余儀なくされると思っています。だからこそ、ひとつのチョコレート菓子の背後にあるストーリーや企業姿勢を伝えることで、お客様に付加価値を感じてもらえるかがとても重要になってきます」

バリーカレボーもメーカーとして価格高騰をうまくコントロールしなければ、顧客をどんどん失う状況になってきていると尾形さんも危機感をつのらせる。

「私たちメーカーも、どこで作られたのかわからないようなチョコレートやカカオ豆を使うことは今後なかなか難しくなってくるでしょうし、大手を中心に、サステナブルでトレーサブルで、企業姿勢として間違っていない原材料選びが求められる時代になってきています。どうしてチョコレートの値段が高くなっているのか。それは様々な要因が複雑に絡み合っているので簡単に説明できるものではありませんが、せめて自分のお店で使っているチョコレートについては、『農家さんたちの支援に力を入れたサステナブルなものを使っているからです』などと、少しでもお客様の理解を得られるようなコミュニケーションを取っていってほしいと思っています」

チョコレート イノベーション コンテストは、参加者がこうした問題と各々向き合い、乗り越えていくための総合的なスキルを身につける場であってほしいという尾形さんの願いが垣間見えた。

Co00107 Co00107
サステナブルな活動を支援するカカオ原料を使用した製品には「ココアホライズン」「フェアトレード」「レイフォレストアライアンス」マークのいずれかが付いている

「挑戦して終わり」にならないために

「実は先日、昨年ショコラトリー部門で優勝したテオブロマで働く佐藤駿さんから『チョコレート部門に異動になった』と連絡をもらったんです。彼はそれまでパティスリー部門で働いていましたが、チョコレートについての学びを深めるためにコンテストに参加していました。それがファイナリストに選ばれたことで、テオブロマのオーナーが最終審査(授賞式)を見に来てくださったんです。佐藤さんのチョコレートを学ぶ姿勢や情熱が、作品やプレゼンを通して伝わって、念願のチョコレート部門に異動となったのかと思うと、偶然かもしれませんがすごく嬉しかったですね」

コンテストを終えた後のシェフたちの活躍こそが大切なのだと尾形さんは言う。実際、リクエストがあれば参加者全員を対象に審査結果のフィードバックをしているという。コンテスト一回きりではなく、回を重ねながら参加者との関係性を築いていくことで、ゆくゆくは良きパートナーとして一緒に業界をいい方向へと導いていけるかもしれない。昨年の優勝者の後日談を聞きながら、そんな期待がこのコンテストには込められているように感じた。

最後に、尾形さんが考えるチョコレートという食材の魅力について尋ねてみた。

「チョコレートは嫌いな人があまりいないこともあって、嗜好品として人に喜びを与えられる食材です。私の仕事はシェフの方たちに技術を教えることですが、その人たちの手によって間接的に幸せを伝達していけるのかなって思っています。でもその背景には、カカオ農家さんの貧困や児童労働といった目を背けてはいけない問題があります。メーカーとして改善しようにも、決して単純なものではありません。結果論にはなってしまいますが、私たちはチョコレートを使ってビジネスを続けていくことで、その恩返しとまでは言えませんが、多くの人に幸せを分けていくことができたら、こんなに幸せなことはないと思っています。私一人にできることは微力ですが、今はこのようなポジションにいるので、一人でも多くの人に伝える機会を増やしていきたい」

Co00106 Co00106

現在募集中(6月12日締切)の第6回のテーマは、「未来を彩る新しい伝統菓子」。クラシックから学び、アレンジを行い、常に新たなニーズに応えるべく進化させてきた現代のお菓子は、時代とともに古典的かつ伝統的なお菓子に移り変わっていく──100年先の未来も店頭に並ぶような革新的なお菓子とはどんなものだろうか。今回のチョコレート イノベーション コンテストもまた、チョコレートの本質とは何かを考える絶好の機会になることだろう。

Co00101 Co00101

チョコレート イノベーション コンテスト2024 スケジュール

■応募締切           : 2024年6月12日(水)
■一次書類審査結果発表(※1) : 2024年6月26日(水)
■二次本審査日(※2)     : 2024年7月31日(水)
※1 18:00よりInstagram Live ストリーミング又はInstagram投稿、チョコレートアカデミー™センター東京WEBサイトのコンテストページより発表。
※2 本審査では作品、試食分を予め送付。

詳細は下記リンクの「応募要項」をご覧ください。
https://www.chocolate-academy.com/ja-JP/contest/2024