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世界基準のいい会社を示すB Corpとは?

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article: Momoka Kuriyama
pictures : Yuya Okuda

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社会や環境に配慮した公益性の高い企業への国際認証制度「B Corporation認証(以下、B Corp)」をみなさんはご存じでしょうか。アメリカに拠点を置くNPO法人「B Lab」によって運営されているこの認証制度は、自然や環境といった側面のみならず、従業員満足やガバナンスなど多方向からの評価において、世界基準で“いい会社”を認証するもの。たとえば日本にも支社を持つ国際的企業としては、patagoniaやaesop、ダノン、ヴァローナなどが取得しています。アメリカで始まったこのB Corpの認証を2022年に国内飲食店で初めて取得した株式会社ovgoの創業者溝渕由樹さんに、その背景や道のり、認証取得後のメリットなどについて伺いました。

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小伝馬町にある第一店舗目のお店は今年リフレッシュオープン。客席が増え、イートイン限定のメニューも登場。日本橋付近という場所柄、外国からのゲストも多く、連日オープンから大盛況
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写真=ovgo提供

<プロフィール>

株式会社ovgo
“organic, vegan, gluten-free as options”の頭文字をとった、ヴィーガンアメリカンベイクショップ「ovgo Baker」を運営。創業以来、環境や動物、あらゆる人々と未来にとってやさしい食の選択肢を楽しく提供することをミッションに、全てヴィーガンかつできる限りオーガニックや自然栽培または国内で生産された食材で、クッキーを中心とした焼き菓子の製造・販売を行ってきた。創業者の溝渕由樹さんは1993年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、三井物産株式会社法務部での職務経験を積んだのち、DEAN&DELUCA勤務を経て、2020年にovgoを創業。

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ovgoの焼き菓子の中でも主力商品であるクッキー。アメリカンなBIGサイズで、本当にヴィーガン?と食べた人が驚くほどに満足感がある味わい

環境、従業員、社会、みんなにGOOD。B Corpとはどんな認証制度?

“いい会社”とひとことにいっても、その意味は着目する面によって変わってしまうのが難しいところ。環境へも配慮したい、働く仲間にも喜んでほしい、もちろん利益も上げたいし、地域社会ともつながりをもって…。SDGsの観点なしに企業や店舗のあり方を考えることが難しくなった昨今、環境・社会への配慮と、企業としての経済活動、両方をかなえたいと思い悩む会社は多いはず。そんな企業にとってひとつの手掛かりとなるのが、2006年にアメリカで生まれたB Corporation(B Corp)という認証制度です。

従業員、関係者、地域、社会や環境などすべてのステークホルダーの利益(=Benefit)の追求をめざすのがB Corpの認証制度。オンラインでの200項目を超えるテストを通じてのアセスメントで企業の状態をはかるというその内容は、「ワーカー(従業員)」「コミュニティ」「エンバイロメント(環境)」「ガバナンス(管理・統制)」「カスタマー(顧客)」の5つの観点に分類されており、事務局の定める基準を一定以上満たすことで、認証を得ることができます。

「フェアトレードやISO認証、環境や森林への配慮など、世の中には結構一カ所にフォーカスしている認証が多い中で、B Corpは網羅的にいい会社ということを表すものなのだと知ったというのが、取得したいと思ったきっかけかもしれません」と話すのは株式会社ovgoの創業者溝渕由樹さん。2020年に創業した株式会社ovgoは、2022年に日本で16社目、飲食店としては初めてB Corpの認証を得て、世界各国約8900社からなるグローバルコミュニティの一員となりました。

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会社の始まりは小学校の同級生3人で。今は志を同じくする仲間が増え、原宿や京都にも支店ができた。全国のカフェや飲食店への卸にも注力している

同級生3人で始めたクッキー屋さん「ovgo Baker」が、どのようにB Corp認証の世界企業に?

2022年の認証取得時に評価された点を溝渕さんは「公平で公正な社内制度や、透明性の高い財務報告書、環境負荷の低いオーガニックやローカルの原材料を使用している点や、毎年排出した二酸化炭素のオフセットを行っている点」だといいます。

創業時から変わらないovgoのクッキーは、例えばこんなルールで作られています。

“100%プラントベース”
環境への負荷を減らすため、動物性の食材(バターや卵、乳製品)は使用しない

“オーガニック”
化学肥料や農薬を極力使用せず、自然を大切にした加工方法で作られたものを使用する

“国内生産”
食品の輸送にかかるCO2排出(飛行機や船、車の使用)を考慮し、国内で作られたものの中でも拠点(東京・神保町)により近いものを使用する

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まずはどうしてそんなお菓子作り、ひいては会社の在り方を目指そうと思ったのでしょうか。

「5年ほど前に新卒から務めた最初の会社を辞めて、アメリカや南米へ旅に出たんです。もともと人権や格差社会に関心があったので、子供の教育支援のNGOでインターンをしたりしながら、公平な社会づくりとか、どうやったら格差をなくせるだろうと考えていました。その時に滞在したアメリカでは、WHOLE FOODS(アメリカのオーガニックスーパー)をはじめ、オーガニックとかヴィーガン、グルテンフリーなどが注目されていて。フェアトレードの食品ブランドがすごく好きだったことと、自分の興味関心のある分野が旅を通して自分の中で重なりました。気候変動、多様性、格差社会、人権…、さまざまな問題すべてが行きつく先にプラントベース(植物性食材)があるのかもしれないと、私のなかですべて地続きになる実感を得られたんです」

まだ当時日本でプラントベースは聞き馴染みのない言葉でしたが、自分でもなにかやってみようという思いで、帰国後に自身が好きだったクッキーを作り始めたそう。

「オーガニックでヴィーガン、社会にいいものだとしても、美味しくないのって嫌だなという思いが強くて。前段なしにただクッキーとして美味しいもので、食べた後にそういう理念とかに少しでも貢献できたらいいな…みたいな。初めはそんな気持ちで、小さなキッチンでクッキーを焼いて青山のファーマーズマーケットで売り始めたんです。アメリカをはじめ海外の流れを見ていたから、もう少ししたらきっと日本にもこのヴィーガンの流れが来るだろうというのは自信があって。一足早くやろうって思えたのは、大きかったかもしれません」

小学校の同級生2人に声をかけ、手探りでクッキーを焼き始めたのが2019年。その3年後くらいからやっと、活動と世の中の関心度がマッチしていく実感を得られたと溝渕さんは言います。

「2019年からovgoとしてはクッキーの販売を始めていて、その後クラウドファンディングを経て店舗を構えたり、従業員が増えたことで少しずつ組織になっていって、2021に株式会社化しました。実は会社づくりと同時にB Corp認証取得は意識をしていて。株式会社化と同時に会社を整えて2021年にB-Labへ申請を提出したのですが、評価までにかなり時間がかかって2022年末にようやく取得できたっていう感じでした」

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お店の壁面には大きな「B」のマーク。日本の代表企業として、クッキーを媒体に「B Corp認証」の認知も広めていきたいと溝渕さんは言う

取得までの道のりも健やかなチームづくりへの一歩

「経営者初心者として、自分がいいと思える会社がどういう内部ルールでやってるのかを知るのに、B Corp認証取得までのプロセスがすごくいいなと思いました」その言葉の通り、“どんな企業なら自分も働きたいか”、その思いを基に、株式会社化を踏まえて実際に組織をつくっていく上で、B Corp認証の評価基準をテキスト代わりに参考にされていたのだそう。

「私自身がB Corp認証のマークを認識しはじめたのはたぶん2016年あたりで、アメリカのWHOLE FOODSやカフェなど、自分が好きなお店で『B』のマークが付いた商品をきっかけに調べ始めました。まずは環境やフェアトレードだけでなく、従業員やコミュニティを大事にしてるという点まで網羅して認証してるって面白いなと興味を持ったのですが、当時はまだ会社をやろうなんて思っていなかったので、いち従業員的立場や消費者的な目線でこういう会社で働きたいなとか、何かこういうことやってるブランドを選びたいなっていうあくまで個人的な憧れを持っていました」

会社化を決め、自分が働きたい会社の姿を考えた時に、自然とB Corp認証基準を参考にしていこうと思えたそう。現在もovgoの採用のページには、“フレンドリーハンドブック”という名前でその姿勢を公開しており、そこには「どんな食材をどんな思いで選んでいるのか」、「どんな仲間とどんな気持ちで働きたいか」、「どうしてクッキーを焼くのか」、そういった思いたちがシンプルな言葉とポップなデザインで綴られています。

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POPでかわいらしいデザイン、ヴィーガンと知らなくてもおいしい焼き菓子。伝えたいことを難しくなくやさしく、誰しもに手に取りやすく届けることできるのが、ovgoの力

世界中に同じまなざしの仲間がいる心強さ

まだ国内での認知度は高くないことや、認証を得るためのやり取りがすべて英語で行われること、また取得を希望する企業が相次ぎ認証までに時間がかかることなど、ハードルも多いとされる、B Corp認証。先駆者として取得をかなえた溝渕さんはそのメリットをこんなふうに話します。

「いい会社であるということを対外的に認めてもらうマークとしての機能は、国内ではまだまだこれからというのが正直なところで。ただ、私がB Corp認証を取って本当に良かったなと感じているのは、仲間に出会えたことです。今の日本の経営者や事業をやっている人の中で、サステナビリティの観点を一番大事にしたりとか、これまでの既存の資本主義のやり方に違和感を持ってる人たちって、なかなか出会えなくって。自分が本当に目指したい事業の在り方を話しても、大体“そんなの無理だよ”みたいな空気があります。日本においてB Corpのコミュニティはまだそこまで広すぎないので、コミュニティに入れば、他の会社の代表などと気軽に話し合えるという環境に救われていました。既存のものじゃないことをしようとするには反発もあるので、私としては、同じ志を持つ存在がいることが心強いし、そこで気づきや同じように抱える課題が共有できるコミュニティっていうのは、有力だと感じています」

日本国内での繋がりを深め、みんなでいい方向に向かっていくことが次なる目標だという溝渕さんは、今年の春にB Market Builder Japanの代表に就任しました。これからはB Corpの日本での活動を率いていく立場を担います。

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豆乳やアーモンドミルクをはじめとするナッツミルク、こめ油、国産の小麦粉、クリームトッピングのマフィンや、アイスクリームにももちろん動物性のものは使用していない

美味しいから選ぶ、その先により良い社会がつながるように

「美味しくて、かわいくて、なんか気づいたら社会にいいことをしていたみたいなコミュニケーションが、やっぱりわたしの理想です。ovgoの現場からは少し離れて、これからはB Corpの活動へ向ける時間が多くなっていくのですが、根本の思いは変わらずに、仲間がお店を守っていてくれるので、これからも私たちらしく美味しいクッキーを通して社会をすこしでもHAPPYにしていけたらいいなと思っています」

そう話す溝渕さんの思いは、小さなキッチンで自らの手で1枚のクッキーを焼き始めた日からぜんぜん変わらない。

“私たちは、ただの「クッキー」を作っているのではありません。「クッキー」を通じて、みんなにとって「たのしくてやさしい気持ちになれる世界」をつくっています!”
(フレンドリーハンドブックP5より引用)

クッキーを焼く3人のチームから、5年を経てB Corp認証を提供するB Lab日本支部の共同代表に。役割は変わったけれど、フレンドリーハンドブックに書かれているこの言葉の通り、溝渕さんはこれからも目指す世界をひとつずつつくっていくのだろう。堅苦しいルールや大きな力に頼ることなく、難しいことをやさしく咀嚼することばの力と、誰かの手で作られる美味しいクッキーの力を信じて。

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ovgo B.A.K.E.R Edo St.
住所:東京都日本橋小伝馬町10-8
営業時間:11:00~19:00 土日祝10:00~18:00
定休日:無休
Instagram : @ovgo_official