信頼を“かしめる”缶づくり 側島製罐株式会社(愛知県)
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前編「宝物を託される組織」はこちら
Article:Takumi Saito
愛知県の郊外に位置する側島製罐は、1906年に側島左兵衛氏により創業。陸軍の乾パン容器や養蚕業向けの孵化装置などで使用するブリキ缶の製造より始まり、現在はお菓子缶などの「一般缶」を幅広く手がける。一般缶とはクッキーやチョコレートなどのお菓子類、文房具、薬品や美容品などの雑貨に用いられる缶である。一般缶の中でもデザイン性に特化したものは「美術缶」とされ、内容物を守るだけでなく魅せる特性を有している。美術缶の需要増に伴い、側島製罐はその確かな製缶技術を用いて、近年様々な企業とコラボレーションした缶も多く製作している。
日本国内で美術缶を手掛けるメーカーは約20社ほどしかなく、その中でも小ロット受注に対応する側島製罐は稀有な存在だ。同社は缶をさまざまなカルチャーと繋ぎ、パッケージとしての可能性を拡張するとともに、次世代型組織「ティール組織」を実践する企業としても注目を集めている(側島製罐の記事「宝物を託される組織」はこちら)。同社工場の製缶工程を代表取締役石川貴也さんとセールスディレクター千賀涼さんが案内する。
荷受け
「ここがスタート地点です」と案内してくれたのは、板材メーカーや印刷所より届いた板材が積まれた荷受け場だった。光を反射する板材は、一見するとただの金属板だが、ここからすべての缶製造が始まる。印刷済みのものもあれば、まだ何も施されていない銀色のままのものもある。
「お客様のデザインを印刷してもらった上で、当社で切って、抜いて、組み立てていきます」
印刷は上記のような展開図で施される。缶の形になったあとではなく、あらかじめ平面上にデザインを配置する。「荷受けチェックが甘いと、後工程すべてに影響します」と千賀さんは語る。
切断加工
次に案内されたのは「スリッター」と呼ばれる裁断機の前。大きな鉄板を短冊状に切り分け、缶を構成する「胴」「フタ」「底」の3つのパーツを作る工程である。
「紙のように薄く、0.22ミリしかない素材を扱うので、ほんの少しのズレでも仕上がりが歪みます」
鉄板は見た目以上に“しなる”。裁断刃の圧力をほんの0.1ミリ調整するだけで、切り口の滑らかさが変わるという。職人の手元に目を凝らすとわずかな手の感触で微調整を繰り返している。その集中度合いはまるで和菓子職人が包餡の厚みを揃えるような静謐さがある。
プレス加工
スリッターで切り出された短冊状の鉄板は、次にプレス機のエリアへと運ばれ抜き加工をしていく。さまざまな形に対応できる20種類以上のプレス機がある。
蓋部分の加工には「抜く」と「折る」を同時に行う絞り抜きという工程がある。金型で押し抜くと同時に、縁を引き延ばすことで蓋を形作っていく。プレス機の一つが稼働を始めると、金属が鳴らす打音が工場全体に響く。一枚の平らな板が瞬時に立体物へと変わる瞬間。見慣れた缶の蓋が出来上がった。
ライン加工
「ここからが組み立てのライン工程です」と石川さん。細長い板を丸めて缶の胴体をつくる。特徴的なのは、その接合方法「かしめ」だ。
「溶接は使いません。金属同士を互い違いに組み合わせて圧着します。鉄には塑性(そせい)という性質があって、一度力を加えると元に戻らない。潰すことで、はじめて固定されるんです」
かしめた胴体と底をシーマーという機械で巻き締め一体化させると、ついに1つの缶が完成する。
検品
「ここでは全数検査を行っています。ひとつひとつ、目で確認します」。基準は厳しい。光にかざしてやっと見える程度の傷でも、不良とみなすという。
「使えるけれど売れない缶はお客様にお出しできません。どこまでを良品とするかは難しい判断ですが、最終的には自分がもらって嬉しいかどうかで決めます」と千賀さんは言う。
その言葉どおり、検品スタッフたちは無言で缶を回し、光の角度を変えながら微細な欠点を探していた。また端材や不良品は95%がリサイクルされるという。資源を無駄にしないこの仕組みも長年の現場改善の積み重ねの成果だ。
出荷
「かつてオリジナル印刷の缶は最低3,000缶からしか作れませんでしたが、今は60缶から対応することができます」と千賀さんは言う。背景にあるのは、余剰設備の有効活用。現在11ある製造ラインのうち、常時稼働している3、4ライン以外のラインをオーダーに応じて柔軟に動かすことで、少量多品種生産を実現している。側島製罐の豊富な既製缶商品は、同社で在庫を抱えることで短納期に対応する。セミオーダー商品(既製缶に印刷を施したもの)ではインクジェットとシルク印刷に対応(1カ月から1.5カ月納期)。缶のかたちから作るフルオーダー品にも対応している。
「大手メーカーは年間計画で動くため、急な注文にはなかなか対応できません。また大口のお客様に依存しすぎると、取引先がなくなった瞬間に会社が倒れるリスクがある。よって小ロットから対応することで、堅実な商売関係を築いていくことを大切にしています」
職人・松永正彦さん、勤続70年の背中
工場の一角、油の香りと金属粉の漂う工作室に、ひとりの男性がいた。松永正彦さん、85歳だ。入社以来70年間、金型のメンテナンスと部品製作を担当している。現役のフルタイム勤務、毎朝6時半には出社し、旋盤の前に立つという。
「戦後まもなくここに入りました」と言う松永さん。節くれ立つ職人の手。彼の作業机の上には、使い込まれた工具が並ぶ。
「この会社の“精度”の根幹は、松永さんの感覚に支えられています。金型の調整も、彼が音で判断している。機械より正確です」
松永さん自身は「そんな大層なことじゃないよ」と言うが、その存在はまさに会社の記憶そのもの。名古屋駅近くにあった旧工場時代、社員寮で暮らしていた頃の話になると表情がやわらいだ。「石川さんのおばあちゃんが寮母だったんです。あの頃は毎朝バスで工場に通っていましたね」。70年のあいだに社会と会社は大きく変わったが、変わらないものがあるという。
「鉄は変わりません。ちゃんと扱えば、ちゃんと返してくれます」
缶と人をつなぐ
側島製罐はオフィスデザインの改革も進める。事務所と工場を隔てていた扉は撤去され、天井も抜いて開放的な空間にした。
「自分たちで自分たちを分断するものをなくしたかったんです」と石川さんは言う。今では工場職員たちも事務所で昼食をとるなど、部門間の心理的な距離が縮まっている。「Slackは松永さんも見てるんですよ。書き込みは奥さんが代わりにしてくれています」。85歳の職人がデジタルツールを介して若手社員と情報を共有する光景は温かさに満ちている。
「仕事は楽しくあるべきです。儲かっている会社は、みんな楽しそうじゃないですか。楽しそうに働いている人のまわりには、また楽しそうな人が集まる。余裕がある人ほど、他人を思いやれる。他人を思いやることは、必ずいい缶づくりに繋がります」
工場には鉄の音だけでなく社員同士の活気ある声が響いている。かしめた缶のような信頼関係が、側島製罐のものづくりに息づいている。
<プロフィール>
側島製罐株式会社
所在地(本社・工場):〒490-1144 愛知県海部郡大治町西條附田90-1
TEL:052-442-5111
HP:https://sobajima.jp/
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