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食材のクリエイターたち:リバーワイルド(福岡県うきは市)

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article/pictures : Yuya Okuda

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生産者、製造者、輸入者、販売者……役割や呼び名は違えど、みなそれぞれが個性的なつくり手だと言える。様々な能力と意志を持つ食材を生み出し、加工し、流通させる“食材のクリエイターたち”を訪ねるシリーズ企画

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どうせやるならおもしろいことを

福岡県うきは市を流れる筑後川のほとりに全国から熱い視線を送られるハムファクトリーがある。およそ55年前に父親が始めた養豚業を2代目として継いだ杉勝也さんは、新たにハム・ソーセージの加工も始め、出来立てホットドッグを味わえるカフェスペースも設けた。杉さんは社名に、日本有数の暴れ川として知られる筑後川から閃いたものなのか、「リバーワイルド(=激流)」と名付けた。始めた当初はまさに激流に抗うような逆境からのスタートだった。

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リバーワイルドの店内の壁には、往年のロックミュージシャンの写真やレコードが飾られている。特に杉さんが敬愛するのは、デヴィッド・ボウイとジョン・レノンとキース・リチャーズの3人

「26~27年前に親父が倒れたんです。当時私は農業大学を出てハムの勉強という名目で遊び回っていたんですが、男手が自分一人だったので帰ってきて、4年くらいしぶしぶ養豚をやっていました。当時は養豚に興味がなくて、どうせ豚肉に携わるならもっとおもしろそうなとんかつ屋かハム屋をやりたいと思っていた。そんなある日、学生時代の先生が久しぶりに会いに来てくれて、『おまえ、ハムをやるって言ってたじゃないか』って言われて、お金がないからできないと答えたら農家向けの補助金があることを教えてくれた。それでいくらまで借金ができるのか調べて、そそのかされるように借金をしてできたのがこの工場です。でもその時まで忘れてたんです……農場を回すのも自分だし、ハムを作るのも自分だと」

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まだ20代だった杉さんの日常は多忙を極めた。毎日昼間は豚舎の作業をして、ハム作りができるのは夕方から深夜にかけて。「とにかく眠いので、ステレオのボリュームをガンガン上げて音楽を鳴らしながらハム作りをやっていた」と冗談めかして話す杉さんだったが、無理をして始めたハム作りが結果的に杉さんを養豚の世界へと導くことになる。

「最初から養豚に情熱があったらハムなんてしなくてよかったんですよ(笑)。だって、肉を作るだけで十分ロマンがある」

ハムを作るようになったことで、これまで出荷して終わりだった自分の育てた豚と向き合うようになったのだ。肉の色味や赤身と脂身のバランス……より質の高い肉の豚を育てたいという欲求が杉さんの中に芽生えていった。

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商品棚にはキング、アンディ、ブラックファイアー、キースダニエル、ルーシーといった特徴的なネーミングのハムやベーコンが並ぶ

リバーワイルドのスタッフは全部で7名。杉さん以外に養豚に2人、加工に4人という配置で、曜日ごとに毎日違う作業をしているという。その内訳はざっと次のとおり。月曜は豚をトラックに積み込んで市場に送り、火曜は雄豚の精液の採取をする日。他の農場に純粋種の豚の精液や種豚、母豚を売ることもリバーワイルドの大事な仕事なのだ。そして水曜は市場から返ってきた豚肉をスタッフ全員でひたすら切り込み、木曜は肉を熟成させる作業をし、金曜にハムやソーセージの製造をするというのが1週間の主な流れとなっている。

リバーワイルドは、基本的には企業案件の大きい注文を受けていない。それは手作業で大量に均質のものを作ることの困難さをわかっているから。「うちは大手とは違うから」と杉さんは口にするも、それは謙遜ではなく小さいハム屋としての矜持だった。

「かえって小さな飲食店さんからこんなソーセージを作ってほしいと頼まれるほうが燃えるんです。1日にせいぜい10本売れるかどうかの話だから、大手はまずやらないじゃないですか。でもそういうほうがおもしろいなって思えるんですよ」

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ドイツの代表的なソーセージ「ブラートブルスト」を、福岡の人気ベーカリー「シェ・サガラ」のバゲットで挟んだ人気のホットドッグ

すべてはうまい肉にするために

店の裏手にある豚舎を案内してもらった。豚舎に入ると、まずイメージしていたような臭いがしないことに驚く。豚にストレスを与えないよう、豚舎の温度管理も徹底されていた。杉さんが父親から継いだ時はおよそ2200頭の豚がいたというが、今は1400頭ほどに抑えているという。豚の飼育環境は広すぎても狭すぎても良くないらしく、一頭一頭と丁寧に向き合うために見出した最適な規模感とも言える。

「親父から引き継いだ豚舎はすべて建て直したんです。いくら使ってるんだってくらいお金はかかりましたよ。でもそれで食べさせてもらっているからね」

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杉さんがケージの中に入って給餌器をチェックすると、臆病な気質の子豚たちがバタバタと元気いっぱいに騒ぎ出す。ここではうきは・ブランド豚「耳納いっーとん」「耳納あかぶた」をはじめ、旬のうきはのフルーツを飼料にブレンドして与えている「柿豚」、「葡萄豚」、「桃豚」、さらに酒粕をブレンドした「吟醸豚」を育てている。杉さんの説明に耳を傾ける。

「最初は『耳納あかぶた』という純粋種の豚を地元で広めようとしていたのですが、やれ金額が高いとか量がないとかっていうので、三元豚っていう3種類の品種を掛け合わせた雑種の豚を育てて、『耳納いっーとん』という名前で地元の学校給食やスーパーに収めているんです。三元豚はランドレースと大ヨークシャーとデュロックという3種類の豚を掛け合わせるんです。それぞれ特徴があって、胴が長いランドレースと骨格ががっちりしている大ヨークシャーをまず掛け合わせて母豚を作り、最後に肉の質がいい赤豚のデュロックの雄を掛け合わせるんです。デュロックは子数が少ないから成長の早い雑種に肉質を移す。でもデュロックの肉質がどのくらい受け継がれるかはばらつきがあり、肉を見てみるまでわからない。品質が不安定だから、飲食店さんに収める肉として純粋な赤豚もちゃんと増やしています。そんなふうにあらゆる豚を育てているうちに知り合いのフルーツ農家が売れ残ったフルーツを持ってきてくれるようになった。食べさせるフルーツごとに『桃豚』とか『葡萄豚』、『柿豚』と名付けて売っていますが、食べるものでだいぶ肉の味は変わってきますね。秋から冬を越した猪が美味いのは、山でたらふく柿とかを食べているからなんですよ」

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だから豚にフルーツを食べさせるのは自然に近い育て方なのだと、豚のことを語り出したら止まらなくなる杉さんを見ていると、養豚にかける情熱が感じられた。杉さんにこの仕事で喜びを感じる瞬間を訊いてみると、「出産の瞬間にいいのが生まれ落ちてきたり、育ち具合を見ながらいい感じに肉がついてきてるのを見ると一番グッとくる。ハムの仕上がりよりもそっちのほうが……」と笑みを浮かべ、こう続けた。

「今では地元学校給食の一部にうちの肉が使われてるんですよ。あまり意識はしてなかったけど、一番は地元うきはの人に食べてもらいたいし、ちょっと広げても福岡県の人に食べてもらいたい。食べてもらいたい人を想定したら、うちはそんなに規模を大きくする必要がないなって思った」

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市場価格よりも安く年間一本価格で出す学校給食は納めないといけないため、そこまでの儲けにはならないのだと杉さんは言いつつも、どこか誇らしげに見えた。杉さんが駆け出しの頃に出会った同世代のハム屋の中には、会社の規模を拡大してもう肉にも触らなくなった人までいるという。

杉さんに「そこを目指したいわけではないんですよね?」と訊いてみると、「現場から離れる気もないし、自分が作りたいものを作りたい」と頷く。そして少し考えて、「次に何がしたいというのはないけど……」と前置きをしたうえで、杉さんは力強くこう答えてくれた。

「より健康で生き生きした豚を育てたい。そこがうまくいけばうまい肉になる」

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