スモールビジネスのための問屋サービス オーダリーへようこそ

守る職人、導く道具

クリップボードにコピーしました

Ctanaka_top Ctanaka_top

「父も祖父も、機械のことに関してはとにかくストイックな人でした。初代も水車の仕立人だったと聞きますし、そういう血筋なのかもしれないですね」江戸時代から250年続く製粉メーカー・田中製粉の八代目社長を務める田中宏輔氏はそう語る。

生産は、「人」と、道具や機械など「手段」の密接な関わり合いによって成り立っている。
道具は人の力を拡張するために生まれ、人の手だけでは辿り着けなかった色々な景色を見せてくれる。一方で、人の知識や技術、経験の集積によって、道具はその真価を発揮する。

田中製粉

田中宏輔(Tanaka Kosuke)
福岡県八女市亀甲にある、江戸時代中期創業の田中製粉有限会社8代目。IT企業に10年ほど従事したのち、2010年から家業である製粉会社を継ぐ。機械や道具の手入れを長年繰り返しながら、福岡県産小麦だけにこだわり製粉。ロール式製粉機だけではなく、ローテクな石臼製粉機も組み込んで製粉した小麦粉のファンも多い。

歴史を知る製粉機

elem2 Ctanaka_01

江戸時代中期創業、田中製粉。

福岡県八女市亀甲にある工場には、全部で14台のロール式製粉機がずらりと並ぶ。重厚な佇まいと、小麦を挽く豪快な音の響きに包まれた工場内の熱気。昭和20年代に機械を導入してから、既に70年以上が経過している。

elem2 Ctanaka_02

ロール式製粉機の構造はいたってシンプル。一対のシリンダー型ローラーを回転させ、その噛み合い部分に小麦を通過させることで粉砕する。ローラーの回転速度は左右で異なり、そこで生じる”ずれ”によって小麦が割られる仕組みだ。

一度にまとめて粉砕すると皮の部分まで混ざってしまうので、一台目の製粉機はできるだけ小麦を大きく割り、表皮を傷つけることなく、胚乳の塊だけを取り出す。続いて二台目の製粉機ではこの胚乳の塊についている表皮の破片を取り除いて綺麗にし、三台目、四台目と胚乳の塊を段階的に小さくしていく。こうすることによって、表皮の混入を飛躍的に軽減することができるようになったという。小麦を少しずつ小さくし、段階的に小麦粉を作っていくことから「段階式製粉方法」と呼ばれる製法だ。

elem2 Ctanaka_03

田中製粉ではこの工程を12~14回ほど繰り返し、さらに目の細かいふるいにかけることできめの細かい小麦粉づくりを行っている。

製粉は、機械の声を聴く仕事

作業そのものは機械に任せることができるが、小麦の粒度を調整するためにローラーの間隔を計ったり、機械を止めるタイミングを判断するなど、理想の品質を実現するためにはやはり人の手が欠かせない。

elem2 Ctanaka_04

また、長く使い込んだ機械のため、製粉作業中にベルトが外れてしまったり、切れてしまったりと日常的なトラブルも少なくない。ベルトの音や粉の流れからその異変に気づき、瞬時に対応するのも彼ら職人の仕事だ。

気温によってはベルトの伸び縮みが頻繁に起こるため、天候に応じた調整にも気を遣わねばならない。日々工場内を歩き回り、よく見て、よく聴くことが何よりも大切になる。

elem2 Ctanaka_05

月に一度はメンテナンスに時間を充てる。ローラーの滑りをよくするために、回転軸のベアリング(軸受け)部分に油を差すのが主な作業だ。職人たちは全部で何十箇所とあるベアリングをチェックし、機械本体から、高いところは柱を登って油を差して回る。

それでもやはり経年劣化は避けられないので、その場合はベアリングそのものを交換することになる。工場内の設備はあちこちが複雑に絡み合い、連動して成り立っている。そのためひとつ外すだけでもなかなかの大仕事なのだ。

部品がないなら、つくる

elem2 Ctanaka_06

大規模な修繕が必要な場合には、製造元のメーカーに依頼することもある。しかし田中社長によると、製粉機をはじめ古い機械が多いため、既にメーカーそのものが閉業している場合も少なくない。

「たとえばどこかの部品が壊れてしまった場合、うちの機械だともう製造元が存在しないとか、部品の生産が終了しているということは往々にしてあります。ですがそれも金型の職人さんや建具屋さんに依頼して部品を新調してもらうとか、どうにかやりようはあるんです。

先代を務めた父や六代目の祖父はとにかく器用な人だったので、自分で木を買ってきて部品をつくってしまうようなこともありました。ふるいをかけるシフター(写真上)の中の木板にも、父が昔つくって差し替えたものが使われています。

やはり古くから大切にしてきたものなので、自分たちで手をかけられるところはできるだけ自分たちでやっていきたいですね」

Ctanaka_07 Ctanaka_07
先代が作った小麦粉用すくいを持つ会長の田中規道氏
軽くて丈夫、粉もつかない

製粉職人のつとめ

elem2 Ctanaka_08

古い機械を維持するには、それだけで多くの時間と手間がかかる。それでもやり続ける理由は何だろうか。

機械ひとつ変われば、粉はまったく違うものになる。うちの粉が好きだと言ってくださる方がいる限り、求められる限りはできるだけ応えていきたいと思っています。

それに最近は、近くの地域でも新しいことにチャレンジする若い農家さんたちが増えてきました。彼らの小麦を少量でも引き受けて、少しでも多くの人に食べてもらえる形にすることで彼らを応援したい。

これは地域の繁栄にもつながる話ですし、私たちのような小規模の製粉工場だからこそ実現できること。この機械を大事に守っていくことで、そのつとめを果たしていきたいと思います」

article=Juri Mita(@j_l_s_n
pictures=Ryuji Suzuki

■田中製粉
〒834-0065 福岡県八女市亀甲405ー1
HP:https://www.tanakamill.com/
Facebook:https://www.facebook.com/tanakamill/
Instagram:https://www.instagram.com/tanaka_mill/

田中製粉のクリエイターページ