スモールビジネスのための問屋サービス オーダリーへようこそ

©marubishi linked Co.,Ltd

たま木亭 玉木潤氏と考えるパン

クリップボードにコピーしました

Article:Takumi Saito

Co01401 Co01424

2025年11月11日、オーダリーは京都府宇治市に店を構える「たま木亭」のオーナーシェフ玉木潤氏による講習会を開催した。本講習会を通じて玉木氏から一貫して示されたのは、「どのようなパンを焼くか」以前に、「生地をどのように捉え、どのように管理するか」という考えである。

Co01402 Co01402

2001年のたま木亭創業から四半世紀近くが経過した現在も、玉木氏はすべての生地を自ら仕込み、焼成までの全工程を管理している。分業化が進む製パン現場においても、これは属人的なこだわりではなく、生地の状態を起点に「おいしいパン」をつくるための合理的な判断として位置づけられている。

Co01403 Co01403

来場者との質疑応答を軸に、玉木氏のパンづくりについての考えをレポートする。

Q. ミキシングはどこを基準に見れば良いのですか?

玉木氏は、目指す生地の状態はミキサー内での物理的な挙動として現れると説明する。生地における「足」は伸展性、「腰」は弾力を指し、そのバランスをどこに設定するかが生地づくりの出発点となる。

「まずミキサーによって足と腰の出方はかなり違います。たとえば縦型ミキサーは、足は出るんですが腰が抜けやすい。今はスパイラルミキサーを使われている方も多いと思いますが、スパイラルミキサーでもメーカーや仕込み量によって性格が全然違います。腰だけが出て足がほとんど出ないミキサーもありますし、本当にいろいろです。

フックに掛かりすぎるミキサーは、弾力が強く出やすい。一方で、生地がフックから少し逃げながら、申し訳なさそうに回っているようなミキサーもある(笑)。でも、そういうミキサーでも、最後に高速を入れると、ちゃんと仕上げてくれるものもある。ミキサーは見た目だけで判断せず、どう仕上がるかを見ることが大事です。

Co01404 Co01404

よって結局のところ、最後は足と腰のバランスをどう取るかです。オートリーズは足を出すための工程ですし、配合で言えばモルトも足を出す材料です。ただし、オートリーズの取り方には長さがあります。30分なのか、1時間なのか、7時間なのかで生地の状態は全く変わります。

水と粉だけでオートリーズを長く取ると、どんどん緩んでいく。そこに塩を入れれば進みにくくなるし、モルトを抜いたり、ビタミンCを入れれば締まる。逆に、オートリーズを長く取れない環境のお店であれば、モルトを0.3%ほど入れて、水と粉をしっかり合わせて進みを助ける方法もあります」

ミキシングでは、粉の特性、ミキサーの構造、回転数、仕込み量、水温、室温といった複数要因を同時に考慮する必要がある。ミキサーが異なれば、同一配合であっても生地の出方は変わる。玉木氏はこれらを前提条件として把握したうえで、最終的な落とし所をミキサー内の動きから判断する。設備差を制約として捉えない姿勢がある。

Q. 一度に大量の生地を仕込むことで品質は落ちないのですか?

Co01405 Co01405

たま木亭では月曜火曜水曜を定休日とし、水曜日に木曜から日曜まで4日分の生地を一度に仕込む。店舗2階をストック専用フロアとして、計45台の冷蔵庫・冷凍庫で管理している。

生地は仕込み後、段階的に温度を下げて発酵を止め、使用前日に復温させる。講習では、30分ごとにパンチを入れてから冷凍庫に入れ、その後-1℃前後の冷蔵庫で管理した。生地を一度に仕込む方法の目的は、作業の省力化ではなく、仕込みを集約することで生地の状態を安定させ、スタッフ間で生地の情報共有を容易にするための仕組みである。

来場者からは「ここまでまとめて仕込んで品質は落ちないのか」という率直な質問も上がった。玉木氏は「焼き上がりを見て判断します。品質が落ちるならやり方を変えるだけです」と回答した。

Q. スヴィンゴールドはどのような意図で開発されたのですか?

講習会ではバゲット、パン・ド・ロデヴ、食パンの3つの基本生地が仕込まれ、そこから派生する複数のパンが展開された。

Co01407 Co01407

1つ目のバゲット生地には、玉木氏が日清製粉と共同開発した小麦粉「スヴィンゴールド」が使用された。オートリーズを一晩かけて行い、さらに本捏ね後に一晩冷蔵する(オーバーナイト製法)。水分を段階的に加えることで、生地を無理なく緩め、足を引き出す設計となっている。焼成後の内相は濃い黄色を帯び、デンプン由来の甘みとコクが際立つ。「焼き上がった時の断面が黄色いパンを作りたかった」というスヴィンゴールド開発時の意図が形となっている。

  • Co01408
  • Co01409
  • Co01410
  • Co01411
  • Co01408
  • Co01409
  • Co01410
  • Co01411
1枚目から:スヴィンバゲット、チャバタ、黒糖とクルミの甘じょっぱパン、天神

Q. 生地にはどれくらいの圧力をかけてよいのでしょうか?

このバゲット生地からは、「チャバタ」「黒糖とクルミの甘じょっぱパン」、そして会場福岡に合わせた高菜と明太バターのフィリングを用いた「天神」が製造された。チャバタでは、分割時にしっかりと圧をかける工程が示され、「叩くと内相が潰れる」という一般的な理解に対し、「生地ができていれば、叩いた方が上に来る」と説明した。来場者から「どこまで圧をかけてよいのか」という質問が出たが、玉木氏は「生地が戻ってくる感触があれば問題ない」と答えた。

Co01412 Co01412

2つ目、パン・ド・ロデヴの生地では、スヴィンゴールドに石臼挽き小麦をブレンド。生地本来の甘みや芳醇さに、ルヴァン由来の穏やかな酸味を重ね、日本人の嗜好に合わせた設計となっている。成形では断面の向きや置き方、圧のかけ方が細かく解説され、生地の跳ねや腰抜けを防ぐための手順が共有された。この生地から展開された「高菜エピ」と「レストラントフリュイ」は、生地の特性を理解した上での応用例として提示された。

  • Co014
  • Co014
  • Co014
  • Co01413
  • Co01414
  • Co01415
1枚目から:パン・ド・ロデヴ、高菜エピ、レストラントフリュイ

Q. なぜ食パンに牛乳を使わないのですか?

3つ目の食パン生地では、スヴィンゴールドを用いた湯種に、日清製粉の強力粉「ビリオン」を組み合わせた。ここからは「ほうじ茶メロンパン」「ほうじ茶ラスク」が展開された。来場者からは「なぜ食パンに牛乳を使わないのか」という質問が寄せられた。

  • Co01416
  • Co01417
  • Co01418
  • Co01416
  • Co01417
  • Co01418
1枚目から:食パン、ほうじ茶メロンパン、ほうじ茶ラスク

「牛乳食パンを“高級”として打ち出している店は多いですよね。実際、舌に当たった瞬間はおいしいんです。でも、パンとして見ると、牛乳や乳製品を入れると口溶けが悪くなりやすい。モゴモゴする感じが出て、抜けが悪くなるんです。

乳製品は入れれば入れるほど、その傾向が強くなります。5、6種類も入れると、なおさらですね。一方で、乳製品を入れていないパンは、口溶けが良くて、軽く食べられる。結果的に、シンプルな食パンの方が、ずっと買い続けてもらえるんです。

Co01419 Co01419

牛乳や蜂蜜を入れたパンは、その場では「おいしい」と思っても、次の日にまた食べたいかというと、そうならないことが多い。うちは“次の日も食べられるかどうか”を商品の基準にしています。

今お見せしている生地を見てもらうと分かると思いますが、腰はしっかりあって、なおかつ伸びが出ている。これが、うちでやっている食パンの生地の状態です。タンパク質がしっかりあって弾力はあるけれど、ちゃんと伸びる。この状態がベストです」

Q. 新商品を作る上で大切にしていることは何ですか?

Co01420 Co01420

講習会後半では、技術以上に、玉木氏のパンの考え方に関する質問が多く寄せられた。「パン作りが上達するために最も大切なことは何か」という問いに対し、玉木氏は「微妙な変化に気づく力」と答えた。温度、湿度、発酵の進み、焼成時の立ち上がり、その差を見て引き算と足し算をする。技術とは繰り返しであり、慣れとはその変化に気づける状態になることだと説明した。

ある来場者が以下のような質問を行った。「私自身、新商品を出すことに行き詰まっていて悩んでいます。今回の講習会を通して、玉木さんは流行に乗るのではなく、玉木さんらしいパンを作っている印象を受けました。一方で、商品によってはお客様の好みや想定外の反応が出ることなどもあると思います。新商品を作る上で、玉木さんが大切にしていることがあれば教えてください」

Co01421 Co01421

「さっきも少し話しましたが、常に“考える状態”をつくることが大事だと思っています。考えに行き詰まる人は、一生懸命考える時間を作ってしまっていると思うんです。何もないところで考え続けるから行き詰まる。僕の場合、まず自分の中で1つテーマを決めるんです。たとえばベーコンとか、素材を1つ決める。僕は、答えを出そうとしないで、そのテーマをずっと頭の中に置いておく。ベーコンとパン、というテーマを持ったまま、普通に生活する。歩いたり、外食したり、百貨店に行ったり、惣菜売り場を見たり。その中で『あ、これやな』って感じる瞬間が必ず訪れるんです。机に向かって考え続けるよりも、テーマを持って日常を過ごす方が近道だと思います。いろんな場所に行って、いろんな景色を見る。見たこと感じたことを、テーマと組み合わせて考える。その繰り返しです」

Co01422 Co01422
会場に並べられた材料とレシピ

日常生活の些細な変化、違和感や発見を見逃さず拾い上げることが新商品の開発に繋がる。流行や話題性よりも「毎日食べられるか」という日常に根ざした消費を重視する、たま木亭の姿勢がここにある。

会場には玉木氏がオーダリーで選択した本講習会専用の仕入れリストより、すべての原料を並べた。生地に、素材にこだわる。玉木氏の脳内を覗くようだった。

Co01423 Co01423

たま木亭

所在地:京都府宇治市五ケ庄平野57-14
電話:0774-38-1801
営業時間:木-日8:00-18:45(月-水定休日)
HP:http://www.tamaki-tei.com/
たま木亭Instagram:@tamakitei

【当日の仕入れリスト】

バゲット生地とその展開

ロデヴ生地とその展開

食パン生地とその展開